『 』
灯台の部屋には彼女はいなかった。
小屋と塔を区切るドアを開けて、螺旋階段をのぼった。
鉄製の、滑り止めの網目細工をつけた踏み段をひとつひとつ、音を積み上げるみたいに昇っていく。
はるか真上のレンズ室の光が周期的に流れて、ガルのネクタイや石材壁のつなぎ目に当たる。
ノースエンドに来るとき、誰かの格言を頼りにしないとできないことなら、初めからやらないほうがいと言っている人物がいた。神経質にテーブルを指で撃ち続けていて、この話をするあいだも、カモメの鳴き声や水夫たちの怒鳴り声にイライラしていた。
あのときは深いと思ったが、今にして思えば、彼の同僚や親戚など近い人物に、いちいち偉人の格言を繰り返し引用する人がいたのだと思う。
天板を開けて、灯台のてっぺん、回廊に立つと、女性聖職者がそばにいた。
ガルに背を向けたまま。
「それが正解に近いかは分かりません」
彼女は言った。
「ですが、そろそろ清算もしなければいけません。自分のしたこととされることは常に釣り合いを求めます」
「人を殺すのは寂しいことだ。でも、殺さなければ、――もっと寂しいことになる」
ガルは弾倉の五発全部を女性聖職者の頭に撃ち込んだ。
彼女は手すりを越え、ブラウスの袖をばたつかせながら、教皇の椅子に落ちず、テロリストの理想郷に落ちず、銀行の大金庫に落ちず、スラムの無料キッチンに落ちず、ただ、灯台のドアの前に落ちた。
――『 』