『ハザの予言』 第34 8節
レールが震え、坂の向こうを路面電車が老いぼれロバのように登ってあらわれた。
電圧の問題か、この電車は走るのがのろい。
別にどこに急いでいるわけでもいないなら、乗るのも悪くない。
看板の字を追ったり、通行人に勝手に物語をつけたりするのも悪くない。
運転手はそんな季節でもないのに帽子をとって、汗を拭くふりをし、エンジニアが電気系統を調べる。
その隣では路面電車会社の車庫があり、レールの外で起きるトラブルに備えて、小型自動車を八台(いずれも会社名をドアに書いてある)、いつ出動してもいいようにガソリンを満タンで待っている。
全ての自動車はひとりの老人がメンテナンスしている。
彼はノースエンドに初めてやってきた自動車のメンテナンスをしたエンジニアだ。家にはそのときの写真が飾ってある。今のよりもずっと肌理が粗い写真で、自動車〈疾風〉号のオーナー兼運転手であるフィーストク男爵が腕組をし、その横に当時はもっと若く男爵に負けず劣らず、不遜な腕組をしたエンジニアが立っている。
それは彼の家でマントルピースに立ててあるが、その顔つきと腕組の具合のせいで、彼の妻はなんだか監視されているみたいな気がするので、彼が留守のあいだ、妻はその写真を倒して、見えないようにしている。
今週末、息子が妻と孫を連れてやってくるだろう。
ある都市では限られた人生をたくさんの経験で満たそうとし、他のものより二倍の速さで本を読み、二倍の速さの劇をみて、二倍の速さで異性とまぐわることが流行していた。
風狂者ハザはその様子にケタケタ笑って膝を打った。
「ご用心、ご用心。そいつぁ、悪魔に人生の半分をくれてやるようなもの」
――『ハザの予言』 第34 8節