『コポルクク、キリアンの写本』 335頁
望遠鏡から目を外したとき、女性聖職者はいなかった。
いたとしたら、どんな顔をしていただろう。
どんな顔をすればいいだろう。
わかっていただろ、アルバート。
おれたちは史上初ではあるが、史上唯一ではなくなった。そういうことだ。
そんなことより、――みんなにはどうする? 教えるのか?
「教えられないよ。こんなこと」
あの女は? あれはとんでもない女だよ。
「うるさい」
お前を中心とした、ささやかな世界は崩壊しつつある。誰にでも持つことが許されるはずのものなのにな。
「うるさい」
あのときと同じだ。この不条理に対する反発をどこにぶつければいいか分からない。だから、一番ぶつけやすいところにぶつける。
「うるさい」
おれはお前が何をしようが、あのときと同様、おれは常にお前のそばにいる。それは掛け値なしの真実だ。それだけ覚えておいてくれよ、アルベルト。
「――ああ、分かってるさ。アルバート」
三日前、『ソレ』は空にいた。
いま、『ソレ』は地面に接している。
明日には『ソレ』は見えなくなるだろう。
――『コポルクク、キリアンの写本』 335頁