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『塩記、ブルックの写本』 第4章 第1節

 音楽隊通り22番地の男が言った。

「わたしの仕事は釈放された人間に仕事を与えることなんだ」

「では、オートマタは無理?」

 音楽隊通り22番地の男は手をこすった。顔同様ふっくらしている彼の指からはカサカサという音が一切しなかった。

「いや、法律が変わった。わたしはオートマタにも仕事を与えられる」

「それはよかった。一刻もはやく生業をつけてもらって、この町に馴染みたい」

「それなんだがね。不景気でこの業務も難しくなってきている。雇う側からすれば、前科者より普通の人間を雇いたいものだ。そして、前科者のオートマタよりは前科者の人間を雇いたい」

「ああ」

「きみは労働オートマタではなく、書記オートマタとして製造されたわけだ。ここはそれほど問題じゃない。オートマタはたとえ書記型でも人間よりも腕力がある。計算機能も文句なしだから、普通なら何か仕事をつけられる。ただ、きみの罪状が問題だ。きみは、本当に人間を殺したのかね?」

「ええ。殺しました」

 音楽隊通り22番地の男は立ち上がり、仕上げの荒い松材の本棚から一冊の本を取り出した。その本を開いて読むわけでもなく、しばらくふっくらした指の腹を赤い装丁革に滑らせると、本を戻して、言った。

「わたしが紹介できる仕事は運送業だけだ」

「旅券が発行されないので、この町の外へは出られない」

「町から町へと運ぶのは普通の運送業だ。そういう仕事は人間か軽犯罪のオートマタが請け負う。きみの仕事場はこの町のなかだ。町のどこかから町のどこかへパッケージを運ぶ」

「なぜ、その仕事を頼む人たちは自分で行かないんだ?」

「行きたくない理由がある。そのパッケージを持っているところを宗務院の役人たちに見つかりたくない理由がある。どうしてもパッケージを届けないといけないが、リスクは他人に押しつけたい。つまりだね、元書記オートマタ、アルベルト・ガル。きみは運び屋オートマタになるのだよ。世界で唯一の人を殺したオートマタに与えられる仕事はこれだけだ」

救世主は聖別された塩をもって、魂の毒を解いた。

立法者は精錬された塩をもって、人の毒を解いた。

葬礼者は埋葬された塩をもって、地の毒を解いた。

               ――『塩記、ブルックの写本』 第4章 第1節


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