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ラゴアン諸島の伝承

 ゴート党の腕章をつけた若者たちが、ゴート党に入れば、同じような腕章をもらえることを子どもたちに説いている横にあるクリニックから販売オートマタのケリーにお呼びがあった。

「まさか販売ノルマを上げる気じゃないだろうな?」

 次の日、ハインズの店でケリーと会うと、その姿は人間の十四歳の少年になっていた。髪は黒く、球体関節も模造皮膚で隠されている。

「こんなことなら販売ノルマが上がったほうがよかった」

「あっはっはっは!」

「笑うなよ、アーロン。あんただって、テストはしただろ?」

「テスト、なんだそりゃ?」

「市内に居住する全オートマタはテストを受けろって通知があっただろ? それ次第で機体を調整するって」

「知らねえぞ、そんなもん」

「はぁ? ハインズは? なあ、ガル。あんたもか?」

 ふたりも首をふった。

「あのニヤニヤ野郎、おれをだましやがって。背が高くなるかもしれないって言ったんだぜ?」

 なんだかかわいそうになってきたので、ハインズは早めに店を閉め、アーロンとガルも連れだって、女性型御奉仕オートマタがいる赤ランプの館へ出かけた。

 最初はマダム(マダムだけは人間だった)がケリーを人間の、しかも未成年だと思って、入店を拒否したが、ガルたちが説明し、なんとか館に入れてもらえた。

 三時間後にはガルたち全員、作業服に工具をたくさん詰めた女性型御奉仕オートマタに体のなかの歯車、銅線、真空管まで全部ピカピカにメンテナンスされ、割高なオイルの代金までガルたちでもち、ケリーにおごってやった。

 四人は工場で組み立てられた直後のようなさっぱりとした気持ちになった。もう、どこまでも堕落してやろうと思い、四人は赤いランプの部屋で高級絨毯の上でころころ転がった。

 館を出て、中央区へ歩く。小さな公園がある広場に出ると、とっぷりと暮れた北国の夜風が公園をめぐり、二百年以上前に死んだ大司教のブロンズ像を氷の塊みたいに冷やし尽くし、広場の人間たち――非番の兵士、若い男女連れ、炒り豆売りの老人――を凍えさせていた。

 その風は広場の縁の自動車道路を歩いていたガルたちのジャケットをばたつかせた。

 そろそろノースエンドも冬へと向かう。

「オイルを不凍液入りにしてもらわないとなあ」と、アーロン。「毎日、こんなとこに来られるわけじゃないし」

「じゃあ、僕はこっちだから」

「おれもこっちだ」

 ガルはアーロンとケリーと別れ、西地区に入ってしばらくして、ハインズにもおやすみを言って別れた。

 ぐっすり眠った次の日、ガルは仕事をし、一杯ひっかけようとハインズの店に寄ると、アーロンと、それに労働オートマタたちがいた。

「誰か今日、ケリーを見てないか?」誰かがそう言うと、みなが首をふった。

「新聞売るのを北地区に変えたんじゃないかな?」

「あいつの万年筆を預かってるんだよ」アーロンが言う。

「あの安っぽいやつ?」

「おれが押し入った倉庫のやつじゃない。射的屋のやつだよ。あの日、帰る途中に、クロア通りで射的をやったんだ。コルク飛ばす鉄砲の、あれだよ。そこで、ケリーのやつ、最高級の商品ばっか立て続けに落として、それが十個くらいになったんだが、こんなの持ってても仕方ないから、カネに替えてくれるとこを紹介してくれって言ってきた。それで見本を預かって、コネで商人を探して、これと同程度なら結構な値段で買い取るって言うから、それを教えようと思ったんだよ。カネくれってせっついたんだぜ」

「赤ランプの館にハマったんだよ」ガルが首をふった。

「ノルマが増えただけだよ」ガラス工場の労働オートマタが言った。「あいつ、改造されたんだから」

「改造するってことはその分、何かに貢献しろってことだ。まあ、おれたちも改造されないよう、せいぜい気をつけようぜ」

 次の日も、ケリーは姿を見せなかった。

 その次の日も、そのまた次の日も。

 新聞販売オートマタのケリーは消えてしまった。

星と地が逆転するとき、海の生き物のなかで蟹の王だけが泰然としていた。

彼には秘策があったのだ。

                          ――ラゴアン諸島の伝承

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