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テインランド地方に伝わるなぞなぞ

僕はときどき思うんだ。

この世界がデタラメに区切られて、夢と現実の境は常に曖昧だってこと。

 下宿のドアから仕事を依頼する紙切れが滑り込んだが、ガルは午前中にオイルを飲む背徳感とその余韻をたっぷり楽しみたかったので、十分間そのままにしておいた。

 オイルを飲み干すと、紙切れを拾い、読むと、あのいじめられっ子だった。

 ドアを開けると、ザクロジュースがひと瓶おいてある。

 彼女のザクロジュースを運んだのはこれで五回目だが、あの男は絶対に受け取ろうとしなかった。

 そして、五回目も失敗し、三十ランプの不労所得。

 おそらく、ガルはあのいじめっ子たちよりも多くの金銭をエリスからまきあげている。

 そのうち、お金も尽きるだろうと思っていると、三日後、六度目があった。

 これまでの五回はどれも日が高いうちに依頼された。だが、六度目は夜だった。

 ドアを開けると、エリスがいたが、左腕を三角巾で吊っていて、左目もガーゼで塞がっていた。

「親は何をしているんだい」

「弱肉強食だって」

「僕に子どもはいないけど、いたら、両腕を折る」

「わたしの?」

「え? いや、違うよ。いじめっ子たち。それに、子どもの腕を折られても平気な顔をする親も」

 エリスは、ふふっ、と笑った。

「あなたは優しいのね」

「工房で入力インプットされた優しさだけど」

「まったく入力インプットされてない人間もいる。わたしが会う人はみんなそんな人だった。よっぽど運が悪いんだと思う。親も、学校も、見て見ぬふり。ほんと、すごいんだから」

「ユーモアはときに強さになるね」

 エリスはいつもの小瓶を取り出した。

「この中身はね、わたしの血。わたしの血を彼に飲んでもらいたい。最初のころは人間から逃げるためだった。でも、いまはね、ちょっと違う。彼と時間を少しでも長く共有したい。それは人間ではできないこと。だから、この血を飲んでもらいたい」

 メランコリーなガルは夜間料金や生体運搬料金を請求することは捨て去って、獲物通りの屋敷に急ぎ、少女の言葉を伝えた。

「彼女は腕を折られたのか?」図書室で、吸血鬼は言った。「どちらの腕を?」

「左腕」

「利き腕はどっち?」

「分からない。それで、どうするんだい?」

「……過去、同じことをした。待っているのは悲劇だってことは分かっている。彼女の親は?」

「弱肉強食みたいなことを言っているらしい」

「そうか……百二十年ぶりだ」

 ポンと軽い音を立てて、コルクが外れ、吸血鬼は深いため息の後、瓶に口をつけて、ひと息に飲み干した。

 指から滑り落ちた瓶が割れ、吸血鬼の細い体はバキバキと音を鳴らしながら――

尻尾が一本、頭が二つ、翼が四つ、腕が六本、牙が百本。なあんだ?

                   ――テインランド地方に伝わるなぞなぞ

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