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『フェルドマンズ』のレシピより抜粋

 ヘイク、ヘイク、ヘイク!

 いつだってこの魚は失業者を救う。

 かの魚類が海を泳ぐ限り、水産工場が閉じることはない。

 ヘイク。それは硬骨魚類。

 ヘイク。それはタラ目メルルーサ科の魚類。

 ヘイク。そんな魚はいない。シルバーヘイクやヒガシカンダレンヘイクといった13種のメルルーサ科魚類の総称――それがヘイクである。

 分布はカンダレン大洋の両側、沈黙洋の最南西部、東メレンド海、アンバードランド南部。おもに陸棚斜面に生息する。

 体は細長くて、背びれは2基、(しり)びれは1基で、第2背びれと臀びれの基底は著しく長く、後部縁辺は浅くくぼむ。尾びれの後端は湾入形または截形(せっけい)

 重要な水産資源であり、鮮魚、冷凍、切身、乾燥、塩蔵、缶詰、家畜飼料用の魚粉などで利用される。

 水産工場はたいてい海に突き出していて、専用のポンプで漁船から直接ヘイクをまきあげる。

 手が傷だらけの老若男女がフィレナイフをふるって、頭と内臓を取り去って、きれいに洗って、箱に放り込む。冷凍され、箱詰めされ、トラックに載せられて、卸売業者から小売業者へ、小売業者から料理屋へと少々の金銭と引き換えに受け渡される(値段の安さもまたヘイクが愛される理由なのだ)。

 利用法はフライ、コロッケ、スープに塩焼き。生で食べる以外のあらゆる選択肢がヘイクには存在する。小さなヘイクはオーブンで焼いてしまうのがいいし、おばあちゃんの秘密のレシピでチーズと混ぜこぜにして焼いてしまうのもよいものだ。

 以上は人間にとっての話。

 オートマタはこれに含まれない。

 オートマタはヘイクを食べることはできないし、オートマタは水産工場で働けない。

 十数年前まではどこの水産工場も労働オートマタだらけだったが、ヘイクの加工以外にできることのない老若男女たちが怒り狂って、デモを行い、祈祷会で集まった教会で『食い扶持奪うな』のシュプレヒコールを上げ、ヘイク産業において、水産加工の役割を無効化しようとした鋼の胃袋を持つ勇者たちは、工場の前で一切の加工がされていない生のヘイクをバリバリ食べた。ある抜け目ない将軍はこの強力な民衆勢力を利用して反乱をもくろんだ。

 結局、教国執政たちが集まって決めた結果、ヘイク加工に労働オートマタを使うことを法で禁じた。決めてはヘイクの生食だった。抜け目ない将軍は自分で思っていたほど抜け目がなかったわけではなく、彼が頼みとした民衆に見捨てられ、銃殺された。

 そんなことが十数年前にあったのだが、工場主たちはいまも労働オートマタの夢を見る。オートマタたちは繁忙期に二十四時間労働を課しても文句ひとつ言わない。自動車用オイルを一杯、それに人間で言えば、ビネガーをかけた熱い空豆にあたる赤錆びたボルトを一皿無料配布すれば、作業効率は夢のように上がる。

 だが、全ては夢まぼろし。

 人間は家族をつくる。子をつくる。

 その分、より多くの賃金を要求する。

 それに比べれば、オートマタは刹那的な生き方をしている。

 ビールと空豆。

 それさえあれば、おいらはへっちゃら!

絶対に牛乳は入れるな。

                 ――『フェルドマンズ』のレシピより抜粋

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