『分析手法二論』 第6章 第9節
ノースエンドは五つの地区に分かれている。
中央地区があり、そこから東西南北の四つの地区。
北地区と西地区が海に面し、東地区と南地区は草原へ向いている。
北地区にはガルが降りた港があり、東地区には音楽隊通り22番地がある。
ふたりの観光客が降りたのは中央地区だ。
もうじきバスは東地区へ入るだろう。
『求人。業務:聖歌歌唱。給与:月払い1000ランプ(課税対象外)』
『輸入調味料多数取り扱い――ナツメグ。ピメン』
『「灼熱怪獣の襲撃」入場料 大人4ランプ 子ども1ランプ50ピース』
文字はまだ流れる。
『古い帽子も特殊な蒸気でサイズをぴったりに――』
『匿名配送絶対秘密』
流れる文字はまだ拾われ続ける。
『宗務院の偽善者どもへ、この画を送る』
『警告。壁に描かれた異端の画を見てはならない。宗務院倫理局』
まだまだ。
『コールマン理髪店』
『全国労働オートマタ・ギルド312支部』
『材木取り扱い ケンデル商会 1834年開業』
まだまだ文字を読み拾う。
仕方がない。ガルは元書記オートマタなのだ。
『リズの食堂。おいしいコーヒーと熱いサンド!』
正しくはおいしいサンドと熱いコーヒー!ではないかと思ったところで、バスが停まった。
「音楽隊通り。降りる際には足元に気をつけてくれ」
戦争を分析する場合、できるだけ遠くから試みること。
虐げられる人びとに同情を抱くことのないくらいの距離が最低限必要である。
――『分析手法二論』 第6章 第9節