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『バーテンダーズ・バイブル』 ホワイトライオンのレシピ

 大きな塔が見えるが、そのふもとには行ったことがない。

 たまたま今回受けた仕事がその塔まで行くことだったので、いい機会だと思い、ガルはちょっとめかし込む。

 実際、塔のそばまで寄ってみると、まさかこんなに大きな塔だったとはと驚く。

 塔の門番はガルを見つけると、さっさと扉を通るように言い、ガルはなかに入った。

 階段をのぼり切り、市街を見渡せる上階で受取人にパッケージを渡す。

「この塔は正直、どう見える?」

「大きい」

「そうだな。大きい。他には?」

「何か隠された意味を持っていそうだ」

「なぜ?」

「僕がここに入るとき、門番が扉を開けてくれたのだけど、突然、脇の生垣に隠れていた男が塔へと突進してきた。門番はその男の足を引っかけて転ばせ、襟をつかんで、下のほうの雛壇へ放り出したのだけど、その男は裕福そうで、仕事においてもひとかどの地位を持っていそうな中年だった。その男はいくらでも払うから塔のなかに入れてくれと門番に頼んだけど、門番はまた蹴飛ばすぞと脅かした。僕のようなオートマタは入れるけど、裕福な人間は入れない場所となると、思いつくのは刑務所だ。でも、ここは刑務所ではない」

「ここは刑務所かもしれないよ?」

「門番は僕の銃を取り上げなかった」

「そうか。なら、ここは刑務所じゃない。何かの特別な意味を持つ場所かもしれない。きみはなかなか聡明なようだ。では、本当のことを教えよう。ここはね、宇宙人のためにクロワッサンを焼く施設なんだ」

「……は?」

「言った通りさ。宇宙人はクロワッサンを自分で焼くことができない。だから、彼らはこの町にクロワッサンを買いに来る」

 ガルは男の目に狂気の兆候があらわれていないか確かめ始めた。

「どうして、その、宇宙人たちはパン屋に行かずに、この塔へ買いに来るんですか?」

「彼らの姿はイースト菌に非常によく似ている。うっかり、事情を知らないパン屋に行けば、彼らは生地に入れられ、こねられてしまう。だから、事情を知ったわたしが、彼らにクロワッサンを渡す。わたしは政府に任命されて、この仕事をしているんだ」

「でも、ここはパン屋によくある甘いにおいがしませんね。ちょっと香ばしくて、頬が緩むような湯気が出ていません」

「見た通り、この塔はかなり大きい。だから、パンを焼く香りは散ってしまうんだ。この一連の事業はね、我々では到底およびもつかない巨大権力が絡んでいる」

「えーと、受取のサインをもらってもいいですか?」

「ああ、構わないさ。覚えておいてくれ。わたしは政府の仕事をしているんだ」

 おい、アルバート。もう受けるべきじゃないぞ、こんな仕事。

 こっちの頭もおかしくなる。

 どうしても受けるとしても、割り増し料金を取ることを忘れるべきじゃない。

「ところで、きみに仕事を頼めるかね?」

「いえ、申し訳ないけど、この後、運ばないといけないパッケージが山積みで」

「そう言わないでくれ。この仕事は孤独で重責だ。誰にも不安を打ち明けることができない。それに別に大したものを運んでくれというつもりはない。運んでほしいのはクロワッサンだ。ほら、そこの箱に入っている。こんなに香ばしくてうまいクロワッサンはそうそうないぞ。そんなクロワッサンを運べば、きみのキャリアアップにつながるさ」

白糖・・・・・・・・・・・・・小さじ1と1/2杯

ライム・・・・・・・・・・・・2分の1個

ラム酒・・・・・・・・・・・・ワイングラス1杯

キュラソー・・・・・・・・・・小さじ1/2杯

ラズベリーシロップ・・・・・・小さじ1/2杯


以上をバーグラスに入れて、よく混ぜる。

旬であれば、ラズベリーを飾るもよし。氷をかくのもよし。

        ――『バーテンダーズ・バイブル』 ホワイトライオンのレシピ

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