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ある異端審問官の報告書より

 コルクで栓をしたザクロのジュースの小さなガラス瓶。

 それが今回のパッケージだ。

 これまで真四角のパッケージ、ぶよぶよしたパッケージ、ジメジメしたパッケージ、明らかに生き物がなかに入っているパッケージなどいろいろあるが、どれも中身は見えないよう、箱に入れ、鍵をかけ、紙で包み、封蝋をたらして、印章指輪で捺していた。

 だが、今回のクライアントは隠さずにパッケージをガルに渡してきた。

 それがザクロジュースの小瓶だ。

「これをどこに?」

「東地区の獲物通りを北東に行った先にある町外れのお屋敷に。そこに男の人がひとりで住んでいるから彼に渡して。そして、彼がこれを飲むことを見届けて」

 獲物通りの先の町外れの屋敷に住むのは若い男で図書館のような部屋で、図書館にしか置いてないような重厚な装丁の本のページにしおりを挟む。本にしか興味がなさそうな男で小瓶をもらうと、困った顔をした。

「申し訳ないが、これは受け取れない。彼女に返してきてほしい。もちろん代金は支払う。彼女が払った分もあわせてだ。だから、彼女にはお金を返しておいてほしい」

「もともと返す予定だよ」

「なぜ?」

「運び屋オートマタだって、合理的でない行動はとるんだ。僕は知り合いと一緒に鳩に豆を上げていたとき、彼女が頭からずぶ濡れで、おそらくクラスメートらしき女の子たちに背中から蹴られたのを見た。それで、二十ランプのお代を平気でいただけるほど、僕は合理的ではない。何かメッセージはあるかい? あれば、伝えておくよ」

 男は目をつむって、少し考えてから言った。

「わたしがこれを飲んだとしても、彼女にとってつらいことがひとつ増えるだけ。そう伝えてほしい」

 ガルは実際、そう伝えて、彼女に小瓶と代金を返した。

 彼女は小瓶は受け取ったし、伝言もきいたが、お金は受け取ろうとしなかった。

「また、頼むことになると思う」

「でも、彼は何度きても、飲むつもりはないって言っていた」

「それでも、わたしは彼に小瓶を送る。彼が飲んでくれるまで」

「やっぱりお金は返すよ。そんな話をきくと、ますます受け取れない」

「わたしが持っていても、あいつらにまき上げられるだけ。だったら、あなたに持っておいてほしい」

ある日、鉱夫たちは坑道の奥深くで不思議な光を放つ美しい樹が生えているのを見つけた。幹は緑柱石、葉は紫水晶で出来ていて、透き通った幹のなかで琥珀の心臓が波打つ、誰も見たことのないほど美しい樹だった。宝石樹の噂は瞬く間に広がった。一目見てみたいと思うものが殺到したが、そのころから奇妙な事件が起こり始めた。坑道で男たちが天使を見たと言い出し、そして、天使を見つけた男たちは自分の妻と娘を殺してしまうのだ。村の男たちがみな天使を見て、自分の妻子を殺してしまうと、男たちは宝石の樹が人類を救済するべく生えた天使の使いに違いないと言って、宝石の樹を崇めた。

                      ――ある異端審問官の報告書より

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