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『賊業指南』 13頁

 ウィスキーみたいな洗剤と洗剤みたいなウィスキーを売る店で、ガルは自分が今持っているのが、洗剤なのかウィスキーなのか分からず、途方に暮れていた。

 店はがらんとしていて、客の姿も店員の姿も見えない。

 ここから見えるのはチーズとサラダを売るブース、鉄道旅行券の代理店。

 この店は商品がガラスでできた塔のなかにあり、料金を入れると機械が動いて、望みのものが受け取り口に出てくる――店員も販売オートマタもいないのが売りなのだ。

 そして、狙い撃たれたかのような出会い。

 チキンパイを売るガラス塔の前であの狙撃者に出くわした。紙箱に五つのパイを入れ、それを両手でかかえている。

「身構えないでくださいよ。誰か殺すとき、僕はライフルしか使いません」

「非常時も?」

「非常時には素直にナイフを使います。そんなつまらないこだわりで死にたくないですからな」

「な?」

「僕を育ててくれた人物が古めかしい話し方をする人で、その人の影響がまだ口癖に残ってるんですな。ほら。こんなふうに。油断していると『殺す』を『命をかっぱらう』と言うこともあります。まあ、これでもだいぶ直せたんですが」

「はあ。さっき、非常時はナイフで殺すと言っていたけど、今は非常時?」

「いいえ」

「とりあえず、僕は安全なわけだ」

「そもそも、オートマタがターゲットの仕事は受けません。あなたは運び屋オートマタですな?」

「ああ」

「仕事を頼みたいんですな」

「いま?」

「いまです」

 ガルはステーキ肉を三枚、細切れのニシンの皿を十枚、十字の切れ目を入れたパンをニ十個、ニンジンのスープを三リットルを狙撃者の住む家まで運んだ。

 狙撃者は肉を焼きながら、スープを沸騰させ、ニシンをつまみながら、パイを切った。

 そして、それらすべてを食べてしまった。

「その小さな体のどこにこれだけの食べ物が入ると思ってますな? そういう目には慣れてます。信じないかもしれませんが、人を殺すと、ひどくお腹が減るんです」

「信じるよ」

「では、これは信じられますかな? 人を殺さないとお腹が減らないんですよ。まったく。食べる気がしないです。最初は無理に食べようとしましたが、ダメでした。全部、吐く。でも、体は飢餓状態なんですよ。目の前に食べ物があるのに飢え死にするのは世界で一番のマヌケか、あるいは何かの修行。死にたくなかったら、殺す。同業者は誰も信じないですけど、僕は純粋に食べるために人を殺すんですな。オートマタはどうです?」

「人を殺すのは、――とても寂しかったよ」

「楽しくて殺すやつもいます。あなたはそうじゃない。いいことじゃないですかな?」

殺人術のなかで最も洗練されたものとして、絞殺が挙げられる。

水に三度濡らして三度乾かした細い革紐は針金のように強固になるが、一滴の血も外に流すことなく、頸を深く切り裂いたのと同じ速度で、対象に死を与えることができるのだ。

                         ――『賊業指南』 13頁

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