サグナスの古い銀貨に刻まれた言葉
バスの運賃がガルの少ない所持金を削る。
十ピース玉が一枚料金箱に消えた。
ポケットのなかには五百ランプ分の小額紙幣がある。それがアルベルト・ガル、北の港に置いて行かれた元書記オートマタの全財産だ。
「詐欺だよ、詐欺」
ガルの向かい側に座っている観光客風の男が言った。
「船から見たときには町が青や黄色、それに赤い屋根も見えたのに、降りてからは灰色しか見えない。なんて町だよ。まったく。もっといい町もあった。従兄弟から車を借りて、半島沿いを走る計画もあった。あの旅行代理店のペテン師、へらへらした、カツラをかぶったイカサマ師。静かで都会の喧騒を忘れるにはうってつけですよ、だなんて言いやがって」
男は首から大きな二眼カメラをさげていて、隣には妻か婚約者らしい若い女がいた。
女は目を伏せて、男の言うことに控えめにうなずいている。
それは町の住人から反感を買わず、男の機嫌も損なわない、絶妙なジェスチャーだ。
1)それは町の住人から反感を買わず、
――男はキザな都会野郎だが、女のほうは仕方なくうなずいてる。
――しょうがない。
――ああいう男は気に食わないことがあると、一週間も口をきかなくなる。
――排気ガスのせいだ。
2)男の機嫌も損なわない、
――スーザン(仮名)はいつだって、おれの言うことにうなずく。
――旅行のカネはおれの財布から出ているのだから当然。
――田舎者どもはこんないい女を見たことがないだろう。
3)絶妙なジェスチャーだ。
――ふたりはブロンズの騎馬像がある広場で降りた。
我ら三十枚で神すらも購える。
――サグナスの古い銀貨に刻まれた言葉