『禅秀記』 呪の七
受取人の女性はパッケージを振っている。
なかには何かがぎっしり詰まっているらしく、重さはあるが、音はしない。
「本当にこれ?」
「はい」
女性はクライアントのことは知っているし、この運搬に運び屋オートマタが雇われたことも知っている。
ただ、パッケージの形が予想していたものと大きく違った。
彼女の予想ではパッケージの外装はもっと金属が使われていて、細長くて、中指が手の甲まで曲がって、水棲動物から退化した雰囲気が全体にあるが、旧式の圧縮ポンプに似た重厚さがあり、メモ帳と電話が常備されているはずだ。
しかし、これはただの、真四角の、一辺二十センチの、茶色い紙に包まれて、白いたこ糸で十字に縛られた箱である。
どう頑張っても、彼女の期待にこたえることはできない。
意外性もない。効率的でもない。重厚でもないし、威厳もない。
ただの箱だ。
「うーん」
女性は腕を組んでいる。
箱について、こんな話がある――あるところに女と箱があった。絶対に箱を開けてはいけないよ、と言われていたのに(誰に? そこには女と箱しかないんだぞ!)女は箱を開けてしまった。すると、箱に封印されていた全ての邪悪なもの――信仰、倫理、神聖――が世界じゅうに飛び散っていき、世界は今のごとくなった。女は自分のしたことの重大さに恐れおののき、いまさら箱を閉じようとした。すると、箱の底に残っていた小さな光が慌てて言った。「待って! 閉めないで! 僕は小銭です!」
かんかんだららん、おんだららん。
――『禅秀記』 呪の七