『六王国戦争』 最終章 第21節
ある日のこと。
「本物の世界だ! おれは見た!」
その人間は酔っぱらったわけでも、麻薬を吸い込んだわけでも、妻に離婚を切り出されたわけでもない。
彼の高揚は新発見と啓蒙から来ている。
北地区にはこういう人間がいる。
たいていは冒険家で、北の海の向こうに何があるのかを確かめに行くという無謀な試みの末、人間はこうなる。
「おれたちはつくられた! オートマタ同様に! おれたちはつくられたんだ! 北の海の向こうの氷の大陸の果てに、おれは見たんだ! やつは全てをつくる。人間もオートマタも。神や世界だってそうだ。全部つくられたんだ。やつはおれたちをつくる。創造者なんだ。つまり、やつは神か? 違う! 断じて違う! やつは神じゃない。やつは神じゃない。労働者だ。再生紙工場の労働者なんだ! やつは一日十時間、本の表紙をナイフで剝ぎ取って、紙だけをパルプの鍋に放り込む仕事をしてる。十時間ぶっ通しだ! 切っては入れて、切っては入れる。サンドイッチを食うための十五分の休み以外、やつはぶっ通しだ。やつは十時間寝る。一日きっかり十時間だ。そして、残りの四時間は? 飯を食って、風呂に入って、糞をする。そして、カフェだの女だのに使わず、なんとかとっておいた三時間。そいつは創造するんだ。人をつくり、オートマタをつくり、世界や神までつくっちまう! やつは知らない。創造の結末として、おれたちがいることをな。創造者は想像者! くだらねえダジャレだぜ! でも、掛け値なしの真実だ!」
倫理警察がやってきて、殴り倒され、倫理マスクをかぶせられるまで、男は民衆の啓蒙を試み続けた。
サグナス、ボルドルーブ、ツィーア、ククル=ノア、ロジニアの五君主が数世紀におよぶこの戦乱に終止符を打つべく、講和会議の席についた。ストアルノの王はとうとう現れることはなかった。
――『六王国戦争』 最終章 第21節