第10話 こうた君と駄菓子屋に行く
今日の授業は午前中でおしまい。
なんでも前回の騒ぎで、緊急職員会議が開かれるんだとか。
県の教育委員会からも人が来るって言うから、かなりの大問題になってるんじゃないかな?
被害者がSNSで、
「あまり大げさにしないで、みんなが仲良くしてくれるのが一番だよ♪」なんて声明を出してるんだからほっときゃいいのに、と思わなくもないけど。
そんなんで午後から暇になったんで、こうた君と駄菓子屋にレッツらGO。
ここの駄菓子屋は街ではちょっとした有名スポット。なんでもここのおばちゃん、女性の間では憧れの成功者だとか。
若い頃にイケメンの旦那さんを捕まえた、しかも一夫多妻のこの時代に一夫一妻を貫いた女傑、男女八人の子だくさん、四男四女で孫たくさん。それはあこがれの対象になるよね。
その上この辺の大地主で資産家、駄菓子屋は完全な老後の趣味です。
老後って言っても早く結婚して子供を産んだからまだ五十代、見かけ三十代後半の美魔女。前世の俺ならクラっといっちゃったかもしれない美貌の持ち主です。
一度だけ旦那さんを見たことがあるけど、超イケオジ。
枯れ専とか年上好きって言葉があるけど、たいていの女性はコロッとやられちゃうんじゃないかな。めちゃくちゃ爽やかおじさんだったし。
そんな駄菓子屋だからか客層も幅広く小さいお店は割とにぎわっています。
「あ、ここにも有るね。」
こうた君が見つけたのは壁に貼られたひろし君の引き延ばし写真。
写真の下には「ひろし君御用達のお店♡」のポップとひろし君のサイン色紙が飾られてるし。これってなんぞ?
「最近商店街のいろんなお店で飾られてるんだって、桜泉学園側も地域の活性化の役に立つのならって特別に許可を出したらしいよ。」
ほうほう、流石はひろし様。地域経済にも影響力を広げつつあるとは、すえおそろしいな。
でもこの写真、ちょっと古くない?サインの日付も二年前の様な。
「あぁ、これかい?これはひろし君が3年生の時に書いてくれたもんだよ。」
げ、美魔女。いきなり後ろから話しかけるなし、びっくりするやんけ。
この人いつも俺のことからかって来るんだよな。こっちとしては銀座の高級ホステスさんに遊んでもらっているみたいでうれしいんですけど、でも何て言いますかねぇ、照れるじゃん。おじさんのマインドにクリーンヒットだし?
美魔女もそんな事お見通し♡って言った風にニヤニヤしてるし。
この人苦手だわ~。
で、何でこの写真だけ古いのか聞いてみたら、元々「ひろし君御用達のお店♡」を最初に始めたのがココだったんだと。以前から客足はよかったんだけどひろし君効果でさらに伸びたことを商店会の会合で話したら、ウチもウチもと仲介を頼まれて、おばちゃんが中心になって取りまとめをしたんだってさ。最近新たに張り出したお店も、おばちゃんが直接桜泉学園と交渉して許可を出させたんだって。
おばちゃんなんて辣腕、流石は伝説の女傑。
もしかして最近のごたごたも詳しくご存じなんでは?
え、駄菓子買わないと色々口が滑りそう?
あ、そこのチョコバーとうまうま棒、あと綿あめ頂けますか?
ですんで、その口角が上がった悪そうな笑顔をやめていただけると助かります。