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ルフェーの受難は続く

「ルジーさんがいた頃、時々感じた空気があります。禍々しい気配、それを久しぶりに感じました。その気配がする方へ向かえば、一人の少女がいました。背丈はランジュさんと大きな差はありませんが、その……。かなり、ふくよかな少女でした」


 呼び出されたと思えば、急にそんな話をアインが始める。


「ああいう体型の少女は大抵、動きが鈍いものです。しかしその少女は重みを感じさせることなく、軽やかに走りました。体重と動きが合っていません。まるで外見だけの見せかけで、実際は痩せている少女のように。彼女が背を向けた時、髪へ聖水を振った所、そこだけ髪の色が変わったのです」

「まさか、それは……」


 アインがなにを言いたいのか理解したクランは、一瞬腰を浮かす。そんな彼に向け、アインは頷く。


「ランジュさんと同じく、悪魔界から来た何者かでしょう」


 今度はそれを聞いたランジュが、そんな馬鹿な、と身を乗り出して叫ぶ。


「アイン様とクラン様を恐れない悪魔で、そんな外見の悪魔はいないはずです。それに、それだけの力を持つ悪魔が近づいたら、私も気がつくはずです」

「人間界で暮らしているうちに、その能力が消えたか衰えた可能性は?」


 それはランジュにも答えられなかった。少なくとも、そのような事例は聞いた覚えはないが、絶対にないとは言い切れなかったからだ。


「問題は、その人物がランジュさんの知り合いという可能性があり、目的が分からない点です」

「なるほど。ランジュと顔見知りだから、鉢合わせた時を考え、変身していたということですね。そしてランジュに気配を気づかれないように、対策も行っていたかもしれない」


 変身魔法を使われると、外見から正体の当たりをつけることは難しい。それに気がついたランジュは口を閉じ、逆にそれまで黙っていたセウルがこのような場では珍しく、口を開く。


「……やっぱり、強い悪魔ってやつじゃないのか……。前に会った腕の長い奴は、確かに苦しみだしたし……」


 アインたちを前にすると悪魔が苦しむ。その点については、目撃したのでセウルも認めている。

 さらに一緒に過ごすようになり、アインは噂に聞いていた以上、クランより敬虔(けいけん)な聖職者だと分かった。そんな人物を相手にして耐えられたのだから、いくら悪魔を憎むセウルでも、そうとしか思えなかった。

 だが仮に正体が分かっても、姿を現した目的が分からない。四人ともその人物が教会へ姿を現したのは、無意味とは思えなかった。


「ランジュはその人物と会わない方が良いでしょうか」

「そうですね、目的が分かりませんし。ランジュさん、しばらく誰でも出入り可能な場所には向かわないようにして下さい。どうしても必要が出た場合は、私かクランへ同行を求めて下さい」

「はい……」


 目的不明の謎の悪魔が近づいてきた。しかも、アインを前にしても平気な悪魔。


(信じられない……。そんな力、全然感じなかった……。こちらで暮らしているうちに、感覚が鈍った? お父様に相談するべき? いいえ、下手をすればアイン様たちと書を処分していると気づかれてしまうかもしれない……。相談できない……っ)


 悪魔界に味方はいない。兄弟仲だって良いとは言えない。

 そう考えると、改めてなんて孤独だったのだと思い知る。

 今この瞬間は、アインもクランも心配してくれる。そんなことは悪魔界では有り得ない。

 そもそも悪魔界は家族でも寝首を掻くことは当たり前で、殺し殺されも珍しくない。末の弟は母を愛するあまり父を嫌い、力をつけたら父を殺め、母を奪おうとしている。そんな世界だから、こういう風に集まって話をすることは信じられないが、嬉しくもある。

 だからこそ、セウルとの関係が修復できないことが辛い。

 セウルの過去を考えれば、自分を受け入れてくれることは難しいだろう。


(だってセウルにとって悪魔は、憎む存在なのだから……)



◇◇◇◇◇



 ルフェーは何度か変身して教会へ通っている内に、顔を覚えた人間ができた。

 そのことを王へ報告し、今度は鳥など人間以外の姿となり、その人間の言動を真似るために観察する。その人間になりきれば、よりランジュへ近づくことができるはずと考えてのことからだ。

 何度か虫にされたこともある。壁や床を這いまわり、惨めな姿となった。あまりの屈辱に泣きそうになったが、王から命令されたことにより、その使命を投げることはなかった。

 そのうちランジュを見かけるようになり、そのたびに顔をしかめる。特に笑顔がルフェーを不快にさせる。


(人間と一緒に暮らして、なんでそんな顔をしているのよ。本当、異物、邪魔者。あんな奴、早く排除すべきよ! なぜ力の差が……っ。私の方が、あいつより弱いなんて……っ。あいつよりもっと強ければ、逆らえないほど差があれば! あいつへ自殺しろと命令するのに……っ)


 ルフェーは現在、兄弟の中で一番魔法の才能がない。それが余計に彼女を、完璧な姿を求めさせる要因の一つとなっている。

 モリオンの一族は、相対する相手が格上か否かは確かに分かるが、格下相手だと力量の差を気づきにくい。同等か格下なのかよく分からない。その為、命令ができたことにより、初めて気がつくこともある。

 しかも七人兄弟の間には、大きな差がない。だがルフェーは僅かながら、ランジュが自分より強いと分かっている。だからこそ余計に、普段から妹に強く接している。そしてランジュは性格もあるが、長年言葉や態度で押さえつけられたことにより、ルフェーに逆らわなくなった。


(それにしても、いつまでこんな所へ滞在するつもりなのかしら。こんな所では王の命令通り、書を配るなんて不可能ではない?)


 家族との食事の際、その疑問を口にすると他の兄弟も首を傾げた。


「不思議、とっても不思議。配れなければ、王様からの命令に背くのに。そうしたら、体が耐えられない。全身痛くなるし、気分も悪くなるし、気を失った方が幸せになるのに」


 三女がそう言い、仲の良い四女と顔を合わせ頷き合う。


「問題なのは、教皇と布教使だけ。教会関係者全員、信心深くないはずだ。礼拝者もそうだろう。そういう人間の鞄へ忍ばせている可能性もあるだろう」

「ルフェー、お前がランジュを嫌っているのは知っている。仲良くしろとも言わない。だけど、四六時中見張っている訳じゃないだろう? お前が見ていない間に配っているから、平気なのさ」


 兄二人は、なにか方法があるのだろうと言う。

 三男である末の弟はそもそも話題に興味がなく、適当な口調で、そうに違いないと兄たちに賛同する。


「二人の言う通りよ。教会を利用する者が全員、信心深くはないの。私も幼い頃、教会へ足を運んでいたことがあるけれど、目的は神へ祈りを捧げるためではなかったわ。ただ皆と一緒に行動することを、強いられていただけ」


 珍しくルジーが人間界での思い出を語ったので、子どもたちの動きが止まる。

 子ども達の視線を浴びながら、ゆっくりとルジーは語る。


「幼いころ、留守番するより家族一緒にと連れて行かされていたの。旦那様の花嫁に選ばれたと勘違いされていた妹を助けようと、あの人たちは教会へ通っていたから」

「母上はそこで神への誘惑を断たれていたのですね! さすが母上です!」


 母を溺愛する三男が立ち上がり、大きな音で拍手する。その姿は珍しいことではないので、逆に他の子ども達は落ちつきを取り戻し、食事を再開させると食べ終え、ナプキンを置いた。


「ルフェーお姉様、もうしばらく大人たちの玩具(おもちゃ)にされるのね、かわいそう」

「かわいそうね」


 食堂の扉をくぐる。まさにそのタイミングで、手を握り合った妹たちがわざとルフェーへ聞こえるように会話する。さらに立ち止まると二人そろって振り返り、にやりと笑うと走り去った。

 その妹たちの姿にルフェーは、怒りで体を震わせる。


(屈辱だわ! そうよ、いくら格上の悪魔でも、私を実験動物のように扱って……! 妹たちには笑われ、お兄様たちは話にならない! これも全部、ランジュのせいよ!)


 理不尽にランジュへの怒りを膨らませるルフェーの姿を見て、兄二人は顔を見合わせ、肩をすくめた。この二人も人間とは異なる道理の世界で普通に生きているが、一部人間寄りの感性を持ち合わせていた。


 一方、悪魔界の重鎮たちは、新たな段階に進んでいた。


「特定の人間を再現させる魔法は難しい。声を模写する必要もある。足を引きずっていれば、再現させなければならない。だからこそ、やりがいはある」


 その日、教会関係者への変身魔法を試されたが、鏡を見て「違います」とルフェーは正直に告げる。


「閣下、残念ながら身長が若干足りません」

「む……。人間から、誰かの姿に変身させてほしいと願われた時は簡単なのにな。願いを叶える魔法ほど、優しく簡単なものはない。だが今回のような形で変身魔法を使うのは、長く生きてきても初めてのこと。存外難しいものだ」

「確かに。それについてはお前より、モリオンの方が才能あるしな。あいつは以前、俺を布教師クランの姿へ、簡単に変身させたぞ」

「それはお前の力も作用してのことだろう?」

「……それもそうか。否定しない」


 重鎮の中にはルフェーの叔父、フログの姿もあるが、彼の妻。叔母の命を守るため、その関係性は他の悪魔には秘められている。


(王はご存知でしょうけれど、叔父様が叔母様を気に入っているからなのか、それについてなにか言われたことはないのよね。会わせろとも言われないし)


 ルフェーたち兄弟は、父から他言するなと命じられている。格上の相手である父にそう命じられたので、それに逆らうことはできない。だがなぜ父が叔父夫婦を守っているのか、その理由は教えてもらっていない。


(王は臣下を大切にされているからだろうけれど、お父様と叔父様、そこまで親しそうにも見えないのに、不思議だわ)


 この集まりの時も、二人はそこまで会話を交わしていないので、余計に不思議だった。


「ところで思ったのだけれど……。極端ならまだしも、若干程度の差、人間が気にするのかしら?」


 ある一人の悪魔が首を傾げると、それもそうだとなり、ルフェーは人間界へ投げ捨てられた。






令和6年5月15日(水)


作品完結まで感想受付停止とします。

理由は諸々言われたことを思い出し始め、気持ちを落ちつかせたいからです。


この作品は最初から結末までの流れを作り、書き始めた作品であり、その為感想により当初の流れを変えることはなく、今後、感想欄へ寄せられた感想と同じではないかという表現がありましても、それは作品にとって必要なことであり、感想により作られた描写ではないことをご理解のうえ、今後もお楽しみ下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] その人を知っている人からすると、その若干の差にもの凄い違和感がある。成り済ましって創作で語られる程簡単じゃない。その方法ではクランとアインはまず出し抜けないだろうね。
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