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王からの命令

「来たか、悪魔モリオンと人間ルジーの子どもたちよ」


 そう声をかけられた七人の子ども達は、片膝を立て座ったまま、頭を下げる姿勢を変えない。

 子ども達の父、モリオンの家系が、目上の者から許可を得ないと頭を上げないという決まりを持っている。その習性とも言える決まりが、子ども達の血にも流れている。


「顔を上げよ」


 その一言により、全員が一斉に顔を上げる。


(この方が、悪魔王……)


 七人兄弟の四番目に産まれた次女、ランジュは初めて見る悪魔界の王の姿に驚いた。


 父よりはるかに長く生きていると聞いていたが、その見た目は、子どもと言っても良い。

 そしてなにより、その髪の毛の異様なまでの長さに驚いた。黒い長いその髪は、産まれてから一度も切ったことがないのかもしれない。そう思わせるほど、床にまで広がっている。

 どうやって手入れされているのか、その長い髪は艶やかで、またさらりと真っすぐに揺れ、美しかった。

 吊り気味の赤い瞳。だが色と違い、冷気が宿っているように感じた。


「お前たちに命令する。人間界へ行き、悪魔の書を配ってくるのだ。お前たちは純粋な悪魔と違い、人間の血が混じっている。だから地位や能力に関係なく、世界を行き来できる」


 王の長く赤い爪を持つ指。それが一本振られただけで、兄妹たちの手の中に書物が現れた。


「書は定期的に送る」


 黒い表紙のその本には、呼び出す悪魔の名前。専用の陣の書き方、手順、呪文等、全てが記されている。だが人間が書を利用するので最も必要なのは、書、そのものを手に持っていること。


「最近人間界では、この書を禁書とするように説き、書を回収しては処分している布教使がいる。その働きにより、悪魔の書が禁書とされる風潮が高まっている。悪魔にとって人間の魂は馳走だ。それ一つで、何年分の食事にも匹敵する。だから人間が使わなくなると、私のかわいい配下たちが困る」


 承知した七人が御前から去ろうとしたが、一人、ランジュだけ残るように言われる。

 長女ルフェーはなにか言いたそうに口を開いたが、すぐに不敬になると判断すると口を閉じ、他の兄弟と一緒に退室した。

 二人きりとなった部屋の中で、王はランジュに告げる。


「お前には、私が指示する地で書を配ってもらいたい」


 二人きりになってまで伝える内容とは思えなかった。他の者が聞いても、問題ないとしか思えない。だがそれを口にすることはなく、話を受け入れた。



◇◇◇◇◇



「なんで貴女みたいな奴が、王と二人きりになれたのかしら。教えなさいよ、なにを言われたの?」


 先に帰宅していたルフェーは、王との謁見による疲れを癒すため、菓子に手を伸ばしながら言う。

 その菓子は丸くて柔らかく、口に入れた途端、崩れるように溶ける。そして熱のような辛さをもたらす。モリオン夫人である、人間のルジーには食べられない菓子である。


「指示した、特定の、場所へ行ってほしいと……」

「王が? どうしてあんたが、そんな特別扱いをされるのよ!」


 叱るような姉の声に、思わずランジュは肩をすぼめる。姉妹を仲裁するよう間に入ったのは、モリオンだった。


「王が決められたことに、私達がとやかく言う権利はない」

「でも、お父様……っ」


 透明で量に合わせ浮かぶ炎の大きさが異なる酒を傾ける父に、なおも食いつこうとしたのを止めたのは、ルジーだった。


「旦那様の言う通りよ。それに、王自らあなた達に任務を与えて下さった。光栄なこと。でもね、悪魔の書は配るだけでは駄目なの。使用されて、初めて意味を成すわ」



 人間用の酒を垂らした紅茶のカップを受け取りながら、穏やかな口調で言う。

 子ども達は黙った。同時に、責任という重さを思い知る。

 子ども達は両親が悪魔の書を通じ、結婚をしたことを知っている。

 曽祖父が災害にあった領地を復興させたく、悪魔の書を使い願ったのだ。モリオンはその願いを叶え、代償として花嫁を望んだ。それがルジーである。

 だがルジーが無理やり人間界から連れ去られていないことも、知っている。


 ルジーは人間界に未練はない。

 唯一慕っていた祖母は幼い頃に亡くなり、彼女との思い出さえあれば十分だった。

 むしろ自分は産まれる世界を間違えたとさえ、思っている。人間界ではなく、悪魔界こそ自分の生きる世界だと。






お読み下さり、ありがとうございます。


以前より書きたいと考えていた、シリーズ娘編を始めました。

ざっくりと結末まで出来ていますので、あとは完成形を書くので、頑張ります。

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