俺がヒトラーをぶん殴ったら歴史が変わっていた
ドイツによるポーランド侵攻が失敗した世界線を題材とした架空戦記です。
俺は公立図書館から数冊の本を借りてきた。
1939年から今年2022年までの歴史が分かる本だ。
本を読むと第二次世界大戦は1939年9月のドイツによるポーランド侵攻の「失敗」から始まっている。
ああ、失敗したのか。
俺のいた元の歴史では「成功」していたんだがな。
俺はさっきまで1939年にタイムスリップしていた。
何故、タイムスリップしたかは分からない。
短時間1939年に滞在した後、俺は元の時代2022年に戻った。
最初は寝ている間に見た夢だと思った。
だが、2022年の街の様子が俺の記憶とは違っていた。
あれは夢ではなく、俺が1939年にしたことで歴史が変わってしまったらしい。
図書館から借りた本で変わった歴史を知ることにした。
本によるとポーランド侵攻の失敗の原因は、ドイツの独裁者ヒトラー総統が作戦開始直前に「死亡」してしまったことだ。
ヒトラーが執務室に一人でいる時、執務室から大きな音がして隣室にいた秘書が執務室に入ると、頭部を殴打されたヒトラーが床に倒れているのが発見されたのだ。
ヒトラーは死亡していた。
執務室には誰も出入りしておらず。密室殺人であり、犯人はいまだに不明である。
だが、俺はヒトラーを殴り殺した犯人を知っている。
犯人は俺だ。
寝ていた俺は気がつくと、ヒトラーの執務室にいた。
机で熱心に書類を読んでいたヒトラーは俺が突然出現したのに気づかなかった。
ヒトラーの顔を見たとたん俺は怒りに駆られた。
第二次世界大戦で俺の民族は、この男により多大な被害を受けた。
もし、タイムスリップすることがあれば、ぶん殴ってやろうと思っていた。
この時は寝ている間に見る夢だと思っていたので、「夢なら何をしてもいいんだ!」と俺は実行した。
ヒトラーの頭に全力で拳を叩きつけたのだった。
次の瞬間、俺は2022年に戻っていた。
俺が1939年に滞在していたのはインスタントのヌードルができる時間より短かっただろう。
その短時間で歴史は大きく変わってしまったらしい。
ヒトラーが死亡した後、ゲーリングが総統代行となった。
だが、彼の地位は安定しなかった。
ナチス党、親衛隊、国防軍が「ヒトラー暗殺」の黒幕として、お互いがお互いを疑い始め、容疑者第一号がゲーリングであった。
ゲーリングはもちろん否定したが、効果はなく、ドイツは内戦状態になり、ポーランド侵攻どころではなくなった。
この絶好の機会をソ連の独裁者スターリンは逃さなかった。
ソ連軍を動員してポーランドに侵攻、たちまちポーランド全土を占領し、次の狙いはドイツであった。
ドイツ軍は個々の戦闘ではソ連軍に対して健闘したが、ゲーリングが開戦当初「何もかも嫌になった」との遺書を残して自殺してしまい。
指導者不在のため、ドイツもたちまち全土をソ連軍に占領された。
スターリンの次の狙いはフランスかイタリアだと思われた。
イギリスが主導する連合国は、フランスに大部隊を派遣し、イタリアを連合国入りさせ、極東にある日本も連合国入りさせた。
日本は陸軍が侵攻しソ連領北サハリンを占領、日本海軍は空母機動部隊によるウラジオストク空襲、極東のソ連領に向けて攻勢を開始した。
日本はイギリスが期待した通り、ソ連が極東に配備した兵力を欧州に向けられなくすることに成功した。
ソ連は一時、フランス本土とイタリア半島を占領したが、イギリス軍とともに戦った自由ドイツ軍・自由フランス軍・自由イタリア軍により、フランス・イタリアは奪還された。
しかし、連合国はそこで国力の限界に達し、ソ連も同様だったため講和条約が結ばれた。
アメリカは国民の避戦の意見が強く、兵器や物資を連合国に売却しただけで、結局、第二次世界大戦には参戦しなかった。
ソ連はポーランドとドイツを自陣営のままとした。
極東においては、日本は広大な占領地を得ていたが、ソ連から援助を受けた中国軍によるゲリラ戦に悩まされ、占領地の維持に多大なコストがかかるようになり、損切りをすることにした。
ソ連との交渉の結果、満州国を永世武装中立国とする代わりに日本は朝鮮半島以外の大陸から撤退、サハリン全土は日本の領土となった。
帰国できなくなったポーランドとドイツ軍人は、満州国に移民し、日本から輸出された兵器で武装した満州軍の軍人となり、現在でも満州軍の軍人にはポーランド系満州人とドイツ系満州人が多い。
イギリスが主導する資本主義陣営とソ連が主導する共産主義陣営の冷戦が始まり、それに第三勢力となったアメリカが加わり、三極構造の冷戦となり、それは2022年の今も続いている。
ソ連は崩壊していない。ソ連共産党による一党独裁のまま社会主義市場経済を導入し、一時期悪化した経済の立て直しに成功したのだ。
余談だが、中華人民共和国は崩壊し、いくつかの国に分裂している。
俺の国は元の歴史ではソ連が崩壊した時に独立したが、この世界ではソ連の一部のままだ。
図書館への往復で街を歩いたが、店の看板などの文字がロシア語だけで、俺の民族固有言語が見当たらなかった。
公式の場ではロシア語が強制されていて、民族固有言語は学校教育や出版物から排除されているのだ。
俺は確かにヒトラーを倒したが、別の独裁体制を継続させる原因をつくってしまった。
ささやかだが抵抗運動を始めようと思う。
元の世界の1939年から2022年までの歴史を民族固有言語で小説として書き出版するのだ。
もちろん、公式には認められないから地下出版としてだ。
読んだ人は単なる架空戦記小説だと思うだろうが、「別の可能性の歴史があった」ことを少しでも感じて欲しい。
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