39)エドワルド
人前で泣いてはいけないと、エドワルドは護衛騎士に言われた。
あの日、見たこともないくらい慌てた父に抱きしめられ、無事を確認されたときに涙を流して以来、エドワルドは人前では泣いていない。
今回の件では、誰にも被害はなかったという表向きの発表のとおりに振る舞わなければいけないと、護衛騎士達に何度も諭された。そういう彼らも悲痛な顔をしていた。
皆が我慢しているのだから、自分も泣いてはいけない。エドワルドは必死だった。夜、事情を知る護衛騎士達に守られた寝室で、エドワルドは一人枕を濡らした。エドワルドに覆いかぶさった竜丁の柔らかい温もりと重さが忘れられない。いつも優しい声で何か言ってくれるのに、一言も何も言ってくれなかった。
「父上」
数日後、面会を申し込み、許可されたエドワルドは父の姿を見るなり泣き出してしまった。
「よく我慢したな。えらかった」
事情を知るベルンハルトはエドワルドを抱きしめた。
「竜丁が」
「お前のせいではないよ。矢を放った者、それを命じた誰かが悪い。あとはそれを命じた誰かに金を渡した者も、罪に問われるべきだ。お前は悪くない」
「でも、竜丁は、伯父上が」
ルートヴィッヒが大切にしていた人だ。いつのまにか二人で見つめ合い、微笑みを交わすようになっていた。いつか伯母になってくれるとエドワルドは期待していた。
「ルーイも、お前のせいじゃないことくらいわかっている」
「でも、見舞いも、断られ」
「お前のことを心配しているのだよ。また襲われるかもしれないとね。ルーイは何度も襲われているから、警戒心が強い。危ないから部屋にいるようにという返事だったろう。お前に来るなと言いたいのではない。危ないから、安全な部屋に居なさいと書いてあったろう」
父の言う通り、絶対に護衛騎士達から離れないように、出来るだけ部屋からも出ないようにと、返事には書いてあった。
「どうしても見舞いに行きたいなら、方法がある。だけど、どうやって行ったかは、絶対に秘密だ。見舞いにいった先で見たもの、聞いたことも全部秘密だ。会えるかもわからない。それでもいいなら連れて行こう」
父の言葉にエドワルドは頷いた。
「誓えるか。今から私と行って見たもの聞いたものは決して誰にも口外しない。一生涯誰にも言わないと」
「はい、誓います」
ベルンハルトはエドワルドの手を引いた。
「黙ってついてきなさい」
エドワルドは執務室に入ると、執務机の下に潜り込み、床下を開けた。真っ暗闇の中を、ベルンハルトに手を引かれ歩いていくと、竜騎士達の兵舎の中だった。エドワルドの驚きをよそに、ベルンハルトは慣れた様子で、ルートヴィッヒの執務室に近づいた。部屋の外で待つようにと、ベルンハルトは手で示し、そのまま執務室に入っていった。




