表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/250

39)エドワルド

 人前で泣いてはいけないと、エドワルドは護衛騎士に言われた。


 あの日、見たこともないくらい慌てた父に抱きしめられ、無事を確認されたときに涙を流して以来、エドワルドは人前では泣いていない。


 今回の件では、誰にも被害はなかったという表向きの発表のとおりに振る舞わなければいけないと、護衛騎士達に何度も(さと)された。そういう彼らも悲痛な顔をしていた。


 (みな)が我慢しているのだから、自分も泣いてはいけない。エドワルドは必死だった。夜、事情を知る護衛騎士達に守られた寝室で、エドワルドは一人枕を濡らした。エドワルドに覆いかぶさった竜丁の柔らかい温もりと重さが忘れられない。いつも優しい声で何か言ってくれるのに、一言も何も言ってくれなかった。


「父上」

数日後、面会を申し込み、許可されたエドワルドは父の姿を見るなり泣き出してしまった。

「よく我慢したな。えらかった」

事情を知るベルンハルトはエドワルドを抱きしめた。

「竜丁が」

「お前のせいではないよ。矢を放った者、それを命じた誰かが悪い。あとはそれを命じた誰かに金を渡した者も、罪に問われるべきだ。お前は悪くない」

「でも、竜丁は、伯父上が」

ルートヴィッヒが大切にしていた人だ。いつのまにか二人で見つめ合い、微笑みを交わすようになっていた。いつか伯母になってくれるとエドワルドは期待していた。


「ルーイも、お前のせいじゃないことくらいわかっている」

「でも、見舞いも、断られ」

「お前のことを心配しているのだよ。また襲われるかもしれないとね。ルーイは何度も襲われているから、警戒心が強い。危ないから部屋にいるようにという返事だったろう。お前に来るなと言いたいのではない。危ないから、安全な部屋に居なさいと書いてあったろう」


 父の言う通り、絶対に護衛騎士達から離れないように、出来るだけ部屋からも出ないようにと、返事には書いてあった。

「どうしても見舞いに行きたいなら、方法がある。だけど、どうやって行ったかは、絶対に秘密だ。見舞いにいった先で見たもの、聞いたことも全部秘密だ。会えるかもわからない。それでもいいなら連れて行こう」

父の言葉にエドワルドは頷いた。


「誓えるか。今から私と行って見たもの聞いたものは決して誰にも口外しない。一生涯誰にも言わないと」

「はい、誓います」

ベルンハルトはエドワルドの手を引いた。

「黙ってついてきなさい」


 エドワルドは執務室に入ると、執務机の下に潜り込み、床下を開けた。真っ暗闇の中を、ベルンハルトに手を引かれ歩いていくと、竜騎士達の兵舎の中だった。エドワルドの驚きをよそに、ベルンハルトは慣れた様子で、ルートヴィッヒの執務室に近づいた。部屋の外で待つようにと、ベルンハルトは手で示し、そのまま執務室に入っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ