27)護衛騎士のふりをした方の再訪2
「次、いつ頃来られるのでしょうか」
「多くても月に一回までにしてくれと、すでに伝えてはある。それ以上は絶対に断ると言った。食材も持参しようかと言われた。今回は遠慮したのだが、どうする」
「あまり、変わったものを持ってきていただいても、料理の方法がわかりません」
「一応、断っておくか。狩猟の時期など、鹿を丸々一頭など、持って来るかもしれないからな。あの方は」
「鹿!」
「食べたいか」
「いえ、捌き方がわかりませんし、料理の方法もわかりません。少しだけ頂けるならば、料理方法を考えてみますけれど」
「狩猟の経験がある者がいるから、捌くことはできる。問題はそのあとだ。料理人まかせだからな」
普段の鹿の食べ方が、焚火で丸焼きではないならば、それなりに考えないといけない。
「狩猟の時期は、われわれが北から戻ってくる頃には終わることが多い。天候次第だ。まぁ、そういうのは、王宮の調理人が調理するから任せておけばいい」
山村育ちではあるが、貧しかったアリエルは、鹿も猪も食べたことがない。食べてみたいとは思うが、料理方法がわからない。
「あの方だからと、あまり気負うな。あの方は、料理人が作るやたらと手の込んだ料理は食べ慣れている。お前が作るくらいの、手をかけてくれているが、気負わない料理のほうがいい。美味しい。私は好きだ」
突然の発言にアリエルの返事は一瞬遅れた。好きなのは料理だと、自分にいいきかせた。
「ありがとうございます」
間に気づいたのか気づかなかったのか、ルートヴィッヒは表情を変えない。
「料理が大変だったろうが、悪いが、一段落したら執務室に来てほしい」
「はい」
「あ、片付け、俺達がします」
竜騎士達が手を挙げた。
「では、竜丁、まかせて執務室にこい」
「はい」
ルートヴィッヒは執務室の扉を開けた。
「やぁ、ルーイ、ルーイの竜丁ちゃん、お帰り」
ルートヴィッヒの椅子にベルンハルトが座っていた。驚くアリエルをそのまま部屋に入れ、ルートヴィッヒは扉を閉めた。
「少々お待たせしました。申し訳ありません」
ルートヴィッヒが会釈した。アリエルもその横でカーテシーをした。
「いいよ。突然、時間が欲しいといったのは私だからね」
アリエルはルートヴィッヒに促され、いつもの椅子に座った。
「君と話してみたかった」
ベルンハルトの言葉に、アリエルは驚いてルートヴィッヒを見た。
「私は外す。お話があるそうだ」
思わずアリエルは、立ち去ろうとするルートヴィッヒの服をつかんだ。
「大丈夫だ。陛下も、この後お仕事がある。さほど時間はかからない」
ルートヴィッヒはアリエルの手からそっと服を離させると、そのまま出ていってしまった。




