24)ダンスの教師2
二人の王子のダンスの稽古は続いた。ルートヴィッヒは、稽古場の隅で眠っているだけの日もあった。師匠の持ってきた食べ物を、美味しそうに食べていた。体調が良ければ、楽しそうに踊った。だが、顔色が悪く臥せっている日のほうが多かった。一時期、寝室に呼び出されたこともある。病室には薬草のにおいが立ち込めていた。動けないルートヴィッヒを一人にできないと、ベルンハルトは言っていた。
「私がいない間に、誰かに殺されるかもしれない」
二人の王子は常に帯剣していた。貴族達が噂するよりも、二人の王子は仲が良かった。
「皆、私達を利用しているだけだ。私を見てくれているのはルートヴィッヒだけだ。他は、王子を見ているだけ。王子であれば木偶人形でも何でも良いのさ」
ベルンハルトの悲しげな言葉に、二人が支え合う理由が垣間見えた気がした。
二人の王子は成長し、ダンスの授業に師匠は呼ばれなくなった。師匠は、ダンスを教えることで、貴族と関わり続けた。貴族達がベルンハルトを褒めそやす言葉を王宮で耳にしない日はなかった。
貴族たちが繰り返す褒め言葉に、王子であれば木偶人形でも何でも良いと言っていた、ベルンハルトの言葉を思い出した。
ルートヴィッヒに関しては、全く噂がなかった。生死すらわからず、気を揉んだこともある。竜騎士になったと聞いたときは、師匠も自分も驚いた。竜に乗って飛ぶ彼を見てみたいと、師匠は言った。年老いた師匠は、遠くを見ることが出来なかった。師匠と一緒に、竜騎士が飛ぶ空を見上げたが、師匠の目に竜騎士達が見えていたのかは分からない。
二曲目を踊る二人は、互いを優しく見つめあっていた。
あの日突然、エドワルドに王都竜騎士団の竜舎でダンスの稽古をすると言われた。
「これは、作戦だ。ダンスの稽古はするけど、作戦だからな、お前の協力が必要だ。作戦の理由は秘密だ」
目を白黒させた自分に、エドワルドは大真面目に命令した。作戦は、このためだったのだろうか。
二曲目が終わろうとしていた。師匠が孫のように可愛がった生徒は、自分にとっては弟弟子だ。
「せっかくです。三曲目、覚えておられますか、ラインハルト侯爵様。最近、殿下と竜丁殿が練習しておられるのですが」
楽師が音楽を奏で始める。男性がリードし、女性を支える場面が多い。曲の最初の一節を聞いたルートヴィッヒが、アリエルの手を取った。
「踊れるか」
「まだ、覚えていなくて」
「この曲は、女性は男性に任せたらいい。細かいことは気にするな」
まだ子供のエドワルドでは、十分に竜丁を躍らせることはできない。ルートヴィッヒに支えられ、踊るアリエルは美しかった。
「いつか、殿下の背丈がラインハルト侯のようになられたら、あのように踊ることもできますよ。きっと」
殺風景な竜舎で、二人は踊っていた。
「いや、竜丁は、ラインハルト候と踊る。これも作戦だ。まだまだ、作戦中だ。協力してくれるな」
「もちろんです」
エドワルドの言葉に教師は頷いた。きっと師匠も喜んでくれるだろう。師匠の可愛がっていた弟弟子が、幸せそうに微笑み踊っているのだから。




