22)エドワルドの策略再び
エドワルドは、兵舎でアリエルや一部の竜騎士達と一緒に教師から講義を受け、剣の稽古やダンスの練習をして、ルートヴィッヒの執務室で過ごすのが日課になっていた。
若手の竜騎士達が、交代で剣の相手になってくれるのが楽しかった。その横で、アリエルも剣の稽古をしているが、それは仕方ないと思うことにした。ルートヴィッヒの周囲は昔から危険だから、きっと必要だと、エドワルドは自分を納得させている。
護衛騎士達と竜騎士達が稽古をすることもあり、そんな稽古を見学したりもした。
ルートヴィッヒは、王領の統治について、エドワルドに教えてくれた。少しずつだが、執務の手伝いも増えた。その横で、ルートヴィッヒと対等に語り合い、書類を片付けていくアリエルに、いつか追いつくのが目標だ。
アリエルとのダンスの練習は、なんとかアリエルを練習相手としたものの、あまり進まなかった。アリエルが、あまり関心がないのではないかという教師の意見に、エドワルドは頭を抱えた。関心を持ってもらわねばならないのだ。
「フリッツ」
エドワルドは、かつて相談した護衛騎士を呼んだ。
「竜丁に、ダンスの稽古を頑張ってもらうにはどうしたらいいと思う」
自らが警護する王子を見るフリッツの目は真剣だった。
「殿下、方法に心当たりはありますが、なかなか難しいと思われます。ですが、殿下であれば、いえ、殿下でなくてはできないことです。申し上げてもよろしいでしょうか」
「言ってみよ」
フリッツも宰相派の一人だ。宰相派などという言葉が出来るよりずっと前から、フリッツはルートヴィッヒを敬愛していた。彼の想い人がいずれ、彼に嫁ぐとき、彼にふさわしいと言われるようにするにはどうするか。フリッツも考えていた。鍵になるエドワルド自らが、相談を持ちかけてきてくれたことで、フリッツの計画は進むだろう。フリッツはエドワルドに、胸の内で温めていた計画を告げた。
エドワルドはルートヴィッヒの執務室の扉を叩いた。いつになく緊張する。確かに、フリッツの作戦は有効だろう。問題は、作戦の重要な駒が作戦に必要な動きをするかだ。
「ラインハルト候、ひとつ、お願いしたいことがあるのだが」
書類から目を上げたルートヴィッヒが静かにエドワルドを見ていた。
「ラインハルト侯の竜丁を、以前より私のダンスの稽古の相手に借りている。できれば一度、候と竜丁が踊って手本を見せてほしいのだ」
ルートヴィッヒは、微動だにしなかった。
「候、一度、竜丁と踊って見せてくれ」
エドワルドは、言い方を変えてみた。
「教師がいるはずです」
ルートヴィッヒは静かな声で断りを入れてきた。
「それはそうだ。だが、ある程度剣も上手になったら、様々な相手との手合わせも必要だといったのは候だろう。ダンスも一緒だと思う。一度、踊って見せてくれ」
「護衛騎士にも貴族はいます。踊れるはずです。特に後ろにおられるフリッツ殿は、踊っておられるのを見たことがある気がしますが」
「恐れながら、ラインハルト候がおられるのに、私なぞのダンスの腕ではお相手など務まりません。たった数回とはいえ、候のダンスは拝見しております」
「フリッツ殿、そうはおっしゃるが、もう何年も踊ってなどいない」
「私も同様にございます。他の護衛騎士も私と同様、あるいはもっと酷い様で」
この場にいない同僚達に、心の底からフリッツは詫びた。
「舞踏会のとき、色々な人が踊るだろう。他人が踊るのを見て、慌てたくない。どうか、ラインハルト候、お願いだから、踊って見せてほしい」
エドワルドのお願いにルートヴィッヒが折れるまで、さほど時間はかからなかった。




