表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/250

18)兄と弟4

 そんなある日、エドワルドが、内緒だと言って嬉しそうに教えてくれた。もしかしたら竜丁は、伯母上になってくれるかもしれないと、嬉しそうだった。ルートヴィッヒは、女を竜丁と呼び、女はルートヴィッヒを団長様と呼ぶ。互いの呼び方はそっけないが、そのときの目線が違うというのだ。特にルートヴィッヒは、とても優しい目をしていると、エドワルドは言っていた。だから、確かめたかった。どんな女なのか。誰なのか。


「ルーイ。貴族の女は問題だが、平民の女なら、問題ないと私も思う」

ベルンハルトの言葉にルートヴィッヒは薄く笑った。


 先王の血を引くルートヴィッヒに子供が生まれたら、血の濃さでいえば、第一王子であるエドワルドと同じになってしまう。


 ルートヴィッヒは、妻を持つことも、自分と同じ騒乱の種となりうる子を持つことはあきらめた。そもそも女の気配がしようものならば、国王の後ろ盾である侯爵が、手を打ちに来るだろう。そのためのハインリッヒだ。

「私の母も平民でしたが。行方知れずということになっております。表向きは」

その母親が既に殺されていることを、ルートヴィッヒは突き止めていた。ベルンハルトも知っている。


「あれは、私の騎竜であるトールが、唯一気に入った竜丁です。他の竜達も、あれに懐いています。あれ以外に、今の王都竜騎士団の竜の世話をできるものはいないのです。あれの身に母と同じことがおこらない保証がありますか。トール達、竜の気に入りであっても、全ての人が、それに配慮するでしょうか」

掠れたルートヴィッヒの声には力が無かった。


「すまない」

かつてルートヴィッヒは、だれとも結婚しないとベルンハルトにいった。言葉通り、誰一人として、女を側に置くことはなかった。男色という噂が立ったことすらある。


 ルートヴィッヒは、竜騎士の頂点に立ち、厳格な団長として精鋭部隊を率いている。ルートヴィッヒの相棒は、騎竜のトールだ。竜騎士と竜の間には、強い絆があることが、知られている。トールが、ルートヴィッヒにとって特別でない女に懐くことがないくらい、ベルンハルトにもわかる。

「すまない。からかいの度が過ぎた」

他になんと言って良いか、ベルンハルトにはわからなかった。

「いいえ」

ルートヴィッヒはゆっくりと首を振った。

「殿下や陛下にまでとは、私が迂闊でした。南の竜騎士団長アルノルト殿に、釘を刺されました。マリアは私を追い払おうと必死です。竜丁が、今のままであれば、誰もあれに手は出さないでしょう。竜の気に入りであることが、あれを守ってくれるはずです。喪うくらいなら、諦めます。生きて、そばに、いてくれたら」

表情を失ったルートヴィッヒの頬を、一筋の涙が流れた。


「すまない」

「いいえ。あなたのせいではない」

「ルーイ、誰にも言わない。誰にも言わないから」


 ベルンハルトは子供の時、何度もそういって、涙をこらえるルートヴィッヒに肩を貸した。


 子供の頃と同じ言葉を繰り返し、ベルンハルトは無理やりルートヴィッヒの頭を引き寄せた。肩に頭を乗せたルートヴィッヒから、こらえきれなかった嗚咽が漏れてくる。二人とも、沢山のものをあきらめて生きてきた。一見、王族という恵まれた立場は、ベルンハルトからもルートヴィッヒからも、多くのものを奪っていった。捨てたはずの立場が、ルートヴィッヒには、今も望むことすら許さない。


 嗚咽が静まったころ、ルートヴィッヒが言った。

「ベルンハルト。鍛錬が足りない。この肩はなんだ。あまりに薄い」

「ルーイ、人の肩を借りておいてその態度か」

ベルンハルトの肩から顔を上げたルートヴィッヒの目は赤い。


「この分では、数年でエドワルド殿下に追い付かれますが。よろしいのですか、陛下。私に山ほど書類を回しておられるのです。少しはお時間ができたのではありませんか」

いつもは耳が痛いルートヴィッヒの小言だ。泣いてきまりが悪いのを誤魔化そうとしているのだろう。ベルンハルトは、緩みそうな口元を引き締めた。


「時間などあるわけがないだろう。全く。お前は相変わらず手厳しい」

「陛下の剣と盾と言われる我々ですが、陛下、最低限の身を護る程度の技量はお持ちいただきたい」

「そこまで言うか」

「一度、エドワルド殿下と手合わせされることを、お勧めしますよ」

皮肉にしか聞こえないが、ルートヴィッヒが父子の時間を増やせといいたいことくらい、ベルンハルトにはわかる。

「息子の成長を確かめるのもよいな」

ベルンハルトの返事に、ルートヴィッヒは微笑むと、立ち去っていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ルードヴィッヒの心情を思うと涙が止まりません(T_T) 切なすぎますよ!! いつか2人は結ばれるのでしょうか・・ 心から幸せになってほしい、心から笑顔をみせてほしい・・( *´艸`)グスン …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ