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14)エドワルドの父4

「私はなにか見てはいけないものを見たと思う」

ハインリッヒは呟いた。貴族であるハインリッヒにとっては衝撃の光景だった。ベルンハルトは、威厳に満ちた国王の肖像画からは想像できない人物だった。


「あれは、肖像画で拝見しているお方ではないのです。きっと」

国王であっても、中身は人である。今日はその中身が披露されただけだ。

「今日、お見掛けしたのは、団長様のご兄弟です。国王陛下と殿下は、今日はお忍びでどちらかへ出かけられたのです。ここへはいらしてません」

アリエルは、自らの精神の安定も兼ね、国王陛下の私人である部分を、国王という立場とは切り離して考えることにした。


「詭弁だが、そう思うことにしよう。皆もそう心得よ」

「はい」

竜騎士達が唱和した。彼らが忠誠を捧げる国王陛下は、稀に謁見の間で拝謁がかなう極めて尊いお方である。あの、お代わりに目を輝かせ、ルートヴィッヒに却下されて、拗ねて騒いでいたベルンハルトは、よく似た別人だ。


「ところで、竜丁」

「はい」

「また来るとか、美味しかったとかいうのは空耳だろうか」

ハインリッヒの目が遠くを見ている。また、あの私人ベルンハルトは来ると明言していた。アリエルも現実逃避したい。


「団長様のご心労を思うと、今回限りにしていただきたいです」

あれほど怒るルートヴィッヒは初めて見た。国王であるベルンハルトの身の安全を思うと、あまり出歩いてもらっても、この兵舎に来てもらっても困る。


「本日いらした方のご希望としてはどう思う」

「お言葉通りになさるおつもりかと思われます」

ベルンハルトのあの性格だ。止めることができる人がいるとは思えない。


「嫌いな食べ物でも把握できれば、次はそれを山ほど用意いたしますが」

「無駄だ。ニンジンが嫌いな私でも、お前の作ったニンジンは、なんとか食べられる。団長も豆は嫌いというが、お前が作ったものは食べる。お前の考えている方法は無駄だ」


 確かに、何かくだらないことで喧嘩して、豆だらけの食事にしたことがある。席に着いた瞬間、ルートヴッヒがものすごく嫌そうな顔をした。

「お前のつくった豆は食べられるな」

渋々食べ始めたのに、途中から、不思議な顔をして普通に食べていた。完食したときは、嬉しそうだった。渾身の意地悪が失敗してアリエルもがっかりしたから覚えている。ハインリッヒ相手にも、アリエルの渾身の意地悪は失敗していた。


「今日は忘れましょう。少なくとも、今日の間にいらっしゃることはありません」

「そうだな。団長の御心労を思うと、今日限りにしていただきたいが。ここは貴人をお迎えするような場所ではない」

豪華な家具も装飾品も一切ない、実用一点張りの場所だ。


「心の底から賛同いたします」

アリエルも王宮の王族が住まうような場所に出入りしたことはない。エドワルドに、彼のいくつもある自室の内装をきいたことがあるが、そんな豪華なものは、この兵舎には一切、欠片すらない。


 警備上も問題があると、ルートヴィッヒが言っていた。竜と竜騎士の存在に、安全性を委ねすぎているとルートヴィッヒは常に言っている。

「団長様は、今日お戻りになるのでしょうか」

人はさほど長時間怒り続けることはできない。そんな常識を踏み倒して、怒り続けていたルートヴィッヒのことが、アリエルは心配になってきた。


「子供のころ、兄上と取っ組み合いの大喧嘩していた時のことを思い出すな。まさか、お二人はそんなことをしないだろうが」

ハインリッヒの言葉にアリエルは賛成できなかった。


 何かするだろう。あの怒ったルートヴィッヒは絶対に、何かする。取っ組み合いにはならないだろうが、何かはあるだろう。


 書類仕事はいらないといわれたが、アリエルは執務室に向かった。


 兄弟喧嘩の後、ちょっと心休まるものがあってもいいだろうと思った。警戒心の強いルートヴィッヒが、無人の部屋に放置されていた飲食物に手を付けるかは、悩ましいことだったが、アリエルは盆の上に茶と、時々作っている菓子を用意しておいた。


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