表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/250

4)竜舎の地下

 村の女達にもらった食料は、竜舎の床下にある古い地下牢に収納することになった。


「こんなところに地下牢があったなんて知りませんでした」

慣れた様子で歩くルートヴィッヒの背に、アリエルは声をかけた。

「あぁ。使っていないからな。気づかないのも無理はない」

アリエルも、竜舎の床下に空間があるらしいことに気づいていた。音の反響が違うのだ。いろいろ歩き回ってみたが、入り口を見つけられずにいた。


「古いものだ。竜舎より前にあった建物の地下を残して、竜舎とつなげたらしい」

使われている煉瓦が、竜舎より小さかった。広さも竜舎の床面積の半分もない。螺旋階段が中心にあり、周囲を小さな部屋が取り囲む。塔を地下に埋めたような構造だった。


「ここなら、夏も涼しい。一人で入るな。必ず私と入れ。他の者はここのことなど知らん。私の他では、アルノルト殿がここをよく知っている。他はゲオルグと、ハインリッヒが少し知っているくらいだ」

「毎回、団長様をお呼びするわけにも」

「執務につきあってくれているから、別にかまわない。それに、部下に知れたら、勝手に食べつくされそうな気がする」

アリエルは笑ってしまった。


 ルートヴィッヒと一緒に夕日を見に行った日、星を見てから帰ったら、二人の分の食事が残っていなかった。ルートヴィッヒはしっかり覚えていたらしい。

「保存食が多いから、そのまま食べられないこともない。お前がどうにかしてくれたほうが、美味しいだろう。どうせならゲオルグに棚をつくってもらおうか」

「いいですね。でも、ここどうして団長様と南のアルノルト様がご存じなのですか」


 ルートヴィッヒの顔に、ばつの悪そうな表情がうかんだ。

「見習いの時に、入り口を見つけてアルノルト殿を誘って入った。当時の団長だったゲオルグに、随分叱られた」

「まぁ。団長様ったら、やんちゃな見習いだったんですね。せっかくですから、どうやって見つけたとか、教えてくださいよ」

アリエルの言葉に、ふいとルートヴィッヒはそっぽを向いた。


「見習いは、王都では三年毎に集めるからな。来年、来るぞ」

「もう、団長様、ごまかさないでください。それに、来るぞと言われても、場所はどうするんですか。食事なんて、今で手一杯ですよ」

見習いを集めるのが三年毎なのは、それだけ大変なのだろう。それが来ると言われてもアリエルは戸惑うだけだった。


「見習いの分は心配いらない。竜騎士団の預かりではないからな。王宮付きの騎士団がすべて面倒を見る。指導を担当するのが、まだ、どこの団が責任か決定していない。順当にいけば、次は東だ。有事にでもならない限り、東の竜騎士団のうち、団長か副団長、教育担当の数名が、王都にくる。前に御前試合の時に南がきたようなものだ。他の竜騎士団から数人ずつくることもある」

「まぁ」

「お前の食事の件は、そこそこ知られている。見習いの指導は正直面倒だが、今回は、東は立候補が多いらしいぞ」

「あの」

「手間をかけるが、担当になった竜騎士団の分の食事は作ってやってくれ。東から、竜の世話も、宿舎の掃除も全部やる。頼むから、飯を食わせろ、食事だけは王都竜騎士団と同じものを食べさせてくれと、今から連絡がきている」

「そんなに期待していただいても、特別なものなど、お出しできません」

「いつも通りでいい。よくわからないが、お前の料理は美味しい」

「あまり変わり映えもしないものですよ。同じものになってしまうことも多いのに」

「いい。お前の料理が食べたい。来年も、その先も、お前の料理が食べたい」


 ルートヴィッヒと目が合った。

「この先、お前は、どうしたい。そろそろお前も嫁ぐ年頃だ。誰かに嫁ぐのか。どこか、誰かに嫁いでも」

言葉を紡ぐのもようやっととでもいうのか、ルートヴィッヒは言い淀みながら、一言一言、必死に声にしているようだった。


「ここに、いてくれるか」

掠れた、ささやくような声だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ