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2)王都の柵(しがらみ)

 ハインリッヒは、ルートヴィッヒのすぐ後ろを飛んでいた。ハインリッヒには、トールに乗るルートヴィッヒの胸に、アリエルが顔をうずめているのが見えた。ルートヴィッヒは片手で手綱を取り、空いた手でアリエルを抱いていた。何かを話しかけるルートヴィッヒに、アリエルが頷いていた。腕の中にいるアリエルを、ルートヴィッヒは時折、愛しむように見つめている。


 貴族の目が少ない領地で、ルートヴィッヒは羽を伸ばしがちだ。別に、村人に交じって斧を振るおうが、盗賊退治のために、商人を相手に用心棒の真似事をしようが、そんなことは好きにしたらいいと思う。だが、女は別だ。この夏で、二人の距離が一気に縮まったことくらい誰にでもわかる。あんな目で見つめるようになった娘を、また遠くから静かに見るだけの日々に、ルートヴィッヒが戻れるとは思えなかった。


 最強の竜騎士であるルートヴィッヒは、その身を流れる王家の血もあり、一部の貴族女性に大変人気だ。同時にその身を流れる平民の血ゆえに、別の一部の貴族女性から、嫌われてもいる。そんなルートヴィッヒの身近に、竜に好かれ、平民よりも見下される、流れ者の血を引く娘が現れたのだ。竜丁という、男の仕事をこなす下働きの女だ。貴族の女たちがどう思うか、知れたものではない。


 いずれにせよ、好意的な女など絶対にいない。特に王妃がその筆頭だ。ハインリッヒは、あの高慢な女を頭から追い出したかった。


 ハインリッヒの妹、マーガレットは、男爵家の一員として王家に忠誠を示すため、侍女として、シャルロッテ王妃に仕えている。実質は人質だ。王妃候補でなかったのに、王妃になってしまったシャルロッテ王妃を嘲笑する貴族は少なくない。


 本人が学べばいいが、そういう殊勝さもない。嫉妬深く、疑り深く、思慮に欠けているという噂が、絶えなかった。マーガレットも、噂を否定しない。

「王妃様の嫉妬が誰に向かうか、みんな毎日戦々恐々よ」

ハインリッヒは何度も辞めるようにといった。ただ、マーガレットは、当主である兄が許さないと、溜息を吐いていた。


 ルートヴィッヒにまつわる噂にも、王妃は敏感だ。竜丁が女であるという時点で、彼女は会ったこともない竜丁に嫉妬しているらしい。自らの子でありながら、乳母に預け、見向きもしなかったエドワルド王子が、竜騎士の兵舎に出入りしていることも、そこで竜丁と会っていることも気に入らないらしい。


「何もしないくせに、すべて自分のものと思っているのよ」

騎士を多く輩出する男爵家の娘である妹は気が強い。王妃に対しても辛辣だった。


 護衛騎士達も、王妃が竜丁によからぬ感情を持っているようだと、竜騎士たちに言った。


 二人の距離が近くなった。貴族の目が届かない辺境の地と、王都は違う。今の状態は、何らかの問題を引き起こすとしかハインリッヒには思えなかった。


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