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23)村の男達

「なぁ、竜騎士様」

二人を乗せたトールが飛び立ち、十分遠ざかったのを確認して、村の男の一人が言った。

「あの二人、いい仲か」


 氷室の岩を積んでいた竜騎士たちは顔を見合わせた。団長であるルートヴィッヒは王族の血を引いている。アリエルの存在を、好ましく思わない貴族がいることは、王都竜騎士団の団員全員が知っていた。


「いい仲になったら駄目なんだ」

王位継承権絡みの事情など、辺境の村人に話すことではない。だが、ルートヴィッヒを慕う領民が、領主の事情をある程度知るくらいはいいとリヒャルトは判断した。

「偉い貴族様がさ、団長が結婚するのに大反対なんだよ」

リヒャルトは、細かい事情は全て省くことにした。


「北の竜侯は、国王陛下の剣と盾だろ、誰が反対するのさ。陛下か」

村の男が言った。

「陛下はわからないけど、少なくとも殿下は大賛成だ」

ほぼ毎日やってくるエドワルドに、竜騎士たちも慣れてしまった。

「殿下といえば、次の国王陛下だろう。ならいいじゃねえか」

少し遠くから、作業していた男が叫んだ。


「偉い貴族様が大反対で、国王陛下が賛成としよう。村なら、村長が賛成して、砦の執事が反対の結婚だ。どうなると思う」

竜騎士の一人が叫び返した。

「ろくな事ねぇな。村の中がめちゃくちゃになるな」

村の男たちは頷いた。

「そんな結婚、あの団長が出来るか? おまけに反対している偉い貴族様は、自分の気に食わないやつを、相当殺してるっていう噂が常にあるのさ。証拠がないだけで」

王宮では決して表立って口にされることはない話だが、誰もが知っていることだ。


「じゃぁ、あの嬢ちゃん、大丈夫なのかよ」

リヒャルトは首を振った。

「本当はな、団長は、あの人を大事に思うなら、あんなに親しくしちゃいけない。側に置いちゃいけない。えらい貴族様に気づかれたら、いくら団長が守ろうとしても、あの人が竜達のお気に入りでも、どんな目に遭わされるかわからないからなぁ」

「そりゃ、なんつうか、あれだな」

村人たちは顔を見合わせた。

「どうもこうも、団長が」

「不憫だな」

「あぁ」


 入り口が崩れたが、氷室の本体である洞窟は無事だった。口を動かしていても、手は動く。石を積み、土をかぶせ、氷室はいったん閉じられた。


 作業は無事終わったが、村の男たちと竜騎士の関心は、彼らの領主、彼らの団長にあった。

「なぁ、嬢ちゃんのほうはどうなんだ」

「直接聞いたことはないけれど、いつも団長が一番で、俺たちは、絶対におまけだと思う」

「さっきも、団長様!だ。俺、団長のすぐ隣にいたのに、完全に無視された」

「無視されたのはお前だけじゃない。ペテロ。大丈夫だ。俺はすぐ後ろだった」

竜騎士たちの話に、村の男たちは笑った。

「嬢ちゃんのほうも、悪くねぇってことか」

「不憫だなぁ」


 翼が風を切る音がした。戻ってきたトールが一度旋回し、着陸した。

「もう片付いたのか」

「はい」

氷の竜侯の二つ名のとおりの無表情のルートヴィッヒがいた。

「お前たち村の者、お前達だけでなく、農具を持ってきてくれた者にも世話になった。礼を言う。せめて農具は、竜騎士が持って降りよう。砦まで運ぶ。どれが誰の農具かまではわからん。砦で預かろう。下りは気を付けて降りてくれ。以上だ」

そういうと、ルートヴィッヒは手近な農具を持つとトールに再度跨った。

「日が暮れると視界が悪くなる。急げ」

「はい」

竜騎士たちも立ち上がった。


「さっきの話、俺達が言ったって団長には言うなよ」

「そりゃ無理だ。あんたら竜騎士以外から、どうやって聞くんだよ」

「団長は、細かいこと気にしないから、いつの間にか村の連中が知ってた、ってなら大丈夫だと思う」

「おいおい。そんなんでいいのか」

「その、ちょっと心配なところも含めて、俺達の敬愛する団長だ」

竜騎士たちは飛び立っていった。


 


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