14)来年の約束
「竜丁、見るならば中にいろ。踏み台には乗るな、危ない」
「はい」
ルートヴィッヒの言葉に、アリエルは鍛錬場に足を踏み入れた。
団長達は強かった。
竜騎士に、改善すべき点を次々指摘しながら、しばらく手合わせをし、ある程度したら、技を決めて終わらせていた。稽古を完全に調節していた。
アリエルにも、部下と練習していても、団長達には、あまり鍛錬にはならないことが分かった。稽古をつけてやっているため、持久力の訓練にはなるだろうが、技は向上しないだろう。
副団長のリヒャルトとハインリッヒは別枠で、アルノルトに相手をしてもらったが、あっさり負けていた。
そのうちに、ルートヴィッヒもアルノルトも、数人まとめてかかってくるように命じた。竜騎士たちの動きを見ていたアリエルは首を傾げた。数人まとめてというが、攻撃が一人ずつなのだ、連携していない。数人で一人を攻撃している意味もない。
「竜丁どうした」
気づいたルートヴィッヒが声をかけてきた。
「あの、せっかく数人で攻撃するなら、計画して攻撃したら、もうちょっと強くなれるのではないかと」
「ほう」
「二人いるなら、上段下段をそれぞれ同時に突けば、避けるのが難しくなりますよね」
アリエルの物騒な言葉に、団長二人は、何かを思いついたらしい。
「面白いな。確かに、刺客は同時に来ることが多かったな」
実戦経験豊富なルートヴィッヒは、物騒な過去の経験を口にした。
「なるほどな。お前ら、数人ずつに分かれて、計画練ってこい。明日、出発前に稽古するぞ」
「同じ団だけでまとまるな、適当に散らばれ。ハインツ、リヒャルトお前たち二人は、二人で組め。楽しみにしているぞ。たまには私から一本取れ」
「出発前に稽古ですか」
アリエルは疑問を口にした。
「当たり前だ、いつ何時、有事になるかわからん。宣言してやるだけありがいと思うべきだ」
「飛ぶのは竜だ。人間ではない」
「そうですね」
優しいと思ったアリエルが、手厳しい団長達に賛成し、竜騎士達は肩を落とした。
翌朝。にわか仕立ての組み合わせでは、さほど連携がうまくいくわけがない。ルートヴィッヒもアルノルトも少しは手こずったようだが、結局は、部下達では、歯が立たないままだった。
「来年までに、竜丁殿がいったような、連携がうまくいくような稽古はしておく。私の部下が、ラインハルト侯から一本とると思うと楽しみだ」
「そのお言葉、そのままお返ししますよ」
ルートヴィッヒは好戦的な笑みを浮かべていた。
「竜丁殿、せっかくだから、南でとれる旨いものを持ってくる。楽しみにしていろ」
「はい」
来年の再会を約束して、南の竜騎士団は去っていった。
「さっさと、貴族が動く前に娶るのも手かもしれない」
去り際、アルノルトはルートヴィッヒに囁いた。
南方竜騎士団は、一度大きく旋回してから、南へと飛んでいった。
「稽古にも精が出るだろう。王都竜騎士団団員が、南に負けるわけにはいかない。気を緩めるな」
「はい」
ルートヴィッヒの言葉に、竜騎士達は答えた。




