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5)御前試合

 御前試合の当日になった。竜騎士達は各騎士団を象徴する鎧を身にまとい、竜に跨っていた。北は黒、南は赤、東は緑、西は茶の鎧だ。


 王宮は全体的に華やかな雰囲気に包まれた。ほかの騎士団は、竜丁も着飾らせていたが、アリエルは普段の服を新調してもらっただけだ。この国の歴史上初の女竜丁を着飾らせるならば、男女どちらの服にすべきかが問題になり、結論が先送りされた。単に、アリエルが面倒がったのも要因だ。


 普段着でも、アリエルは目立っていた。試合前の気が立っている竜を、手綱に軽く手を添えるだけで位置につかせ、試合直後の竜を待機場所に連れて帰る。時に、手綱を持っていなくても、竜が後ろからついてくる。そんな試合前後の光景に、観客たちはざわめいた。アリエルを初めて見る竜騎士と竜丁は目を丸くした。


 竜に乗る竜騎士達の戦いは空中戦だ。どうやって見るのだろうと、アリエルは、思っていた。やはり地上からは、空を飛びながら交錯する竜しか見えなかった。貴賓席は高い位置にあった。竜の飛ぶ高さには当然及ばないから、あまり見えていないだろう。アリエルは、国王陛下の顔を確認しようとしたが、遠すぎて見えなかった。


 前もって聞いた通り、王都竜騎士団は強かった。準々決勝から、各竜騎士団の団長あるいは副団長が試合に出場する。その時点で、もう他の竜騎士団員はいなかった。


 試合が進むにつれ竜を操る技術が高度になるためか、観客席に見えるところまで竜を舞い降りさせて戦う者もいた。三位決定戦は東の団長と西の副団長、決勝戦は、エドワルドの言葉のとおり王都竜騎士団団長であるルートヴィッヒと南方竜騎士団団長アルノルトだった。

 

「竜丁殿。貴殿の旨い飯を、気分よく食うために頑張るから応援してくれ」

アルノルトは笑顔で飛び立った。

「竜丁、例年通り、私が勝つから見ていろ」

羽飾りのついた兜をかぶったルートヴィッヒは、そっと左胸に手を触れて、飛び立っていった。


 竜騎士団長達は、御前試合ということを意識してか、戦いながら何度も低いところまで、舞い降りてきた。低空で竜を操りながらの戦いは難しい。高度な技術を感じさせない戦いを二人は繰り広げていた。ルートヴィッヒはアルノルトの攻撃を躱し続け、空いた隙に一撃を決めた。


 喝采を浴びる勝者から、アリエルはトールの手綱を受け取った。

「おめでとうございます」

「ありがとう」

ルートヴィッヒは上機嫌だった。


 優勝者のルートヴィッヒは、服装を整えると、トールを連れ、国王陛下から表彰されるために会場へ戻っていった。準優勝のアルノルトと、三位の東の団長も表彰され、御前試合は終わった。


 兵舎に戻り、少し休憩したら祝賀会だという。アリエルは用意しておいた、レモンを浮かべた水をルートヴィッヒに手渡した。

「これは」

「お水にレモンを入れました。ちょっと風味がつきます」

「そうか」

アルノルトも興味深そうに受け取り、口をつけた。

「うまいな」


 試合に出ていた竜騎士も、出ていなかった竜騎士も群がってきた。用意しておいた分はあっという間になくなってしまった。

「この後、祝賀会もお忙しいでしょうから、少し、何か召し上がられますか」

「何かあるのか! 」

負けてしおれていたアルノルトの目が輝いた。


 アリエルは用意しておいたものを出した。

「なんだこれは」

アルノルトの言葉も無理はない。アリエルお手製で、見た目には改善の余地がある。村での収穫の祝いのときに作っていた菓子をもとに、仲良くなった王宮の厨房の人と一緒に考えた。


 商人たちも、他の国にある菓子や兵糧について教えてくれた。それらを参考に、アリエルが目指しているのは、美味しくて食べやすい兵糧だ。その試作品だった。

「前に、兵糧をいただいたとき、あまりに硬かったので。もう少し食べやすくならないかと思って、作ってみました。見た目はあまりよくないですけれど。少し甘くしました」


 育った山村から王都に向かう時、トールの背で兵糧をもらった。小さく割ってもらったが、あまりに硬く、口に含み唾液で柔らかくなるのを待って食べた。ルートヴィッヒは簡単に片手で割りながら食べていたが、アリエルにはそんな握力はなく、びくともしなかった。あまりに味気ない兵糧に少しがっかりした。竜騎士ならば少しは贅沢をしていると期待していたのだ。


 ルートヴィッヒは遠慮なく大き目の塊を手に取った。

「お前の作るものは、美味しいからな」

アリエルが用意した、兵糧のようなもの、試作品はあっという間になくなってしまった。

「王都竜騎士団は、兵糧もうまいな」


 指をなめながらのアルノルトの言葉に、アリエルは苦笑した。

「いえ、試しに作ってみただけです。おそらく本来の兵糧ほどは日持ちしないでしょうから、時と場合は選ぶと思います」

甘い物を日持ちさせることは難しい。すぐに湿気させてしまいそうだ。

「竜丁殿、この氷の竜侯が、嫌になったらうちに来ないっ」

アルノルトが言い切る前に、ルートヴィッヒの肘がアルノルトの脇腹に命中していた。


「ご冗談はほどほどに、アルノルト殿。そろそろ祝賀会のご用意をされてはいかがですか」

「暴れ竜の乗り手も、気性は荒い」

アルノルトは脇腹をさすりながらも笑っていた。


「竜丁殿、祝勝会というが、各地の団長は、挨拶や何かでほとんど食べる暇もない。ぜひ、私たちの分の食事は残して置いてくれ」

「遅くなるだろうから、先に寝ていろ。鍋に残しておいてくれたら、勝手に温めて食べておく」

ルートヴィッヒはそういうと、アルノルトを連れて行った。


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