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21)兄弟子

 アリエルにとって、ルートヴィッヒは言葉数が少ないだけの親切な人だ。優しかった養父に、昔世話になったというだけで、アリエルを引き取ってくれた。


「じゃあ、団長は竜丁の兄弟子なんだ」

リヒャルトに言われ、アリエルも納得した。ルートヴィッヒといると、優しかった養父といた時のような、温かい気持ちになることがあった。時期は違えど、同じ人に教えてもらった縁があるというのは、不思議なものだ。


 竜よりもよほど扱いにくい北の侯爵、氷の侯爵、氷の竜侯、あるいは竜と呼ばれる王都竜騎士団団長のルートヴィッヒ・ラインハルト侯と、まともに会話できる人間が少ないことを、アリエルは知らなかった。

 

 ルートヴィッヒは、長剣を使えるならと、アリエルに短剣をくれた。長い柄に刃が収納されていて、強く振り出すと、飛び出した刃が戻らないような仕掛けが作動する。やや短い長剣として使える。護身用だといって、使う上での細かい注意も教えてくれた。


「絶対に長剣をまともに受けるな。腕力がないお前では止められない。仕掛けも壊れる。いいな、あくまで短剣よりましな護身用だ。逃げるための時間稼ぎに使え」


 王都竜騎士団は国王陛下の剣と盾である。その竜丁である以上、通常は襲われないはずだ。逆にアリエルを襲うならば、自らの極刑を覚悟しているだろうから何をするかわからない。そんな相手に絶対に勝てないから、逃げろと、ルートヴィッヒに言われた。文官の教師たちにもほぼ同じことを言われたが、武官の頂点に立つ男の言葉の方が、迫力があった。


 王城の中にいる男性は、短剣くらいは携帯している。貴族の男性、騎士や竜騎士にいたっては、許可されて長剣を帯びている。アリエルは女だが、竜丁が短剣を持っているくらいはいいだろうと、竜騎士たちは言った。護衛騎士達も、少し困ったような雰囲気だったが、異例づくめのアリエルが、短剣を持ったくらいで、他が態度を変えないだろう。という正直な返事をくれた。


 トールはアリエルが持つ短剣を見ても、何も言わなかった。


 今日も執務室の窓から、ルートヴィッヒは外を見ていた。自分より長い時をヴォルフと過ごした娘を見ていると、ふとした仕草に、ヴォルフを思い出すことがあった。懐かしさと、ヴォルフが養い子と過ごした、ルートヴィッヒの知らない時間に嫉妬した。執務室の窓から、竜舎やその周辺にいるアリエルはよく見えた。つい、見ていた。アリエルが来てから、習慣になってしまった。


 今日も、かつてルートヴィッヒが使っていた短剣を腰に佩いたアリエルが、エドワルドと剣の稽古をしている。いつの間にか、教師たちが竜騎士団の兵舎に来て、エドワルドとアリエルを相手に授業をするようになった。ほぼ毎日エドワルドは、王都竜騎士団の兵舎にやってくる。


「使わずにすめばよいが、使う間があるか、どうか」

竜騎士団の兵舎に人が少ないのには、それなりの理由があった。万が一のとき、巻き込まないために、ルートヴィッヒは、できるだけ人を雇わないようにしていた。


 娘一人を町に追い出せとは、ハインリッヒも言わなくなった。身売りさせる気かとリヒャルトに詰め寄られ、ようやく気付いたらしい。それでも、アリエルが兵舎にいることをハインリッヒは嫌った。

「王宮内には、女の働き口など他にもあるでしょう。ほかにやりようがあるのではありませんか」

ルートヴィッヒの傍に、女がいることを、貴族が警戒しているのだろう。“貴族の目”であるハインリッヒの懸念も一理ある。


「あれの代わりがいるか」

アリエルは、たった一人で、竜の面倒を見て、竜騎士達の食事を作り、ルートヴィッヒの執務を手伝い、エドワルドの相手をする。もはや、竜騎士団の兵舎で兵士たちの生活を支えるのに必須の人物だ。

「食事がもとに戻ってみろ。お前、全員の不満を抑えられるか」

ハインリッヒもそれには同意をせざるを得なかったらしく、文句を言わなくなった。



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