16)謁見の間3
突然、謁見の間の扉が開かれ、東方竜騎士団の礼服を着たカールが現れた。カールの後ろに続く衛兵が、縛り上げられた二人の男を地面に転がした。
「随分と長く仕事をさせてしまったが、ご苦労だった。東方竜騎士団副団長カール」
「もったいないお言葉でございます。これも私が忠誠と敬愛を捧げるベルンハルト陛下と、王都竜騎士団団長であり宰相代行を務めておられるラインハルト候のためであればこそ。なんの苦労がございましょうか」
完璧な挨拶でカールは答えた。
「して、首尾はいかに」
「はい。この者たちが、昨夜、町の教会に火を着けた下手人です。馬車で逃走したところを捕らえましてございます」
「その馬車は」
「間違いなく、確保しております」
侯爵が異様な叫び声をあげた。
「馬鹿な、そんなはずは、お前達、私を愚弄しおって」
次々と罵声を浴びせるが、衛兵達は侯爵の前で交差した槍を動かさない。
「少し黙っていただこうか、侯爵」
ベルンハルトの合図で侯爵は縛り上げられ、猿轡を噛まされた。すでにその隣にはルートヴィッヒの火付けを叫んだ男達が転がっていた。
「カール副団長、その男たちの猿轡を外してもらおうか」
「てめえら、嘘なんぞ言おうものなら、どうなるかわかってんだろうな」
カールの抑えた声は、彼の足元に転がる男たちを震え上がらせた。
「昨夜、お前たちは何をした、述べてみよ」
侯爵領の農民と名乗った彼らは、教会での火付けを自白した。税を払えず、家族を捕らえられた。火付けをしたら、家族を解放する。火付けをしなければ、一人ずつ火あぶりにしてやると脅されていたと涙した。火付けをした自分達が罰せられるのは仕方ないが、家族を助けてほしいと命乞いをした。
誰が火をつけたか、誰の命令であったかは、明らかだった。
「馬鹿な、昨夜、ラインハルト候が、火をつけるところを見た男がいるのだぞ。馬で王宮に戻って、そ知らぬふりで警備をしていたのだろうが。なぜ、罰しない」
引き立てられる途中、猿轡が外れた侯爵は叫んだ。
「宰相代行閣下へ、濡れ衣を着せようなどと、恐ろしい」
貴族の一人が呟いた。それに同意する声が広がっていった。
「宰相代行だと、庶子の奴にそんな地位など私は認めん!火をつけたのは」
侯爵は叫び続けた。
「侯爵、あなたは致命的な間違いを犯したのだよ」
ベルンハルトは微笑んだ。




