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11)再会あるいは別れ1

 水牢の天井は完全に破壊され、シャルロッテと男の死体が回収された。男は膝に傷はあったが、失血死するほどではなかった。二人の死因は溺水だと薬師たちは判断した。逃げたとアリエルが証言した男も城内で身柄を確保された。狂ったように笑い続け、話も出来ないらしい。


 ルートヴィッヒが見た時には、水で浮腫んだシャルロッテの遺体は清められ、死装束に身を包み、死化粧を施され、棺に横たえられていた。シャルロッテが使っていた部屋には、急拵えの棺が一つあるだけだ。部屋には他のものは何一つ残されていなかった。影達が全ての調度品を運び出し、徹底的に調べている。すでに侯爵家と交わした封書が、戸棚の中から見つかっていた。


 エドワルドが棺の中のシャルロッテを見ていた。ベルンハルトはその肩を抱いて立っていた。

「何があったかは、話したよ」

ベルンハルトの言葉が、静かな部屋に響いた。


「悲しくなくて、不思議だ」

エドワルドはルートヴィッヒを見上げた。

「何があったか聞いた。竜丁が無事で良かったと思った。ここにいるのは母上なのに、悲しくない。不思議だ。私は冷たいのだろうか」


「いいえ」

ルートヴィッヒは跪き、エドワルドを見た。

「竜丁の身を案じてくださいました。殿下はお優しい方です。もし殿下がよろしけば、竜丁にお会いいただけたら幸いです」

「会ってくれるのか。会っていいのか」

エドワルドは勢い込んで言った。


「はい。殿下」

「竜丁を殺そうとしたのは私の母上だ」

「殿下ではありません」

ルートヴィッヒはゆっくりと首を振った。シャルロッテの凶行だが、エドワルドには関係ない。そもそもシャルロッテとエドワルドにはほぼ接点がない。エドワルドが気に病む必要などない。


「王妃を驚かせて、足を滑らせるように仕向けたのは竜丁です。水牢の水を止めさせたかったと聞いています。ですが、王妃に付き従っていた者達は、水も止めず、王妃を助けず、王妃は亡くなられました。意図せずとはいえ、竜丁は、王妃の死のきっかけになりました」

ルートヴィッヒは、アリエルから聞いた、事実を語った。


「竜丁は身を守っただけだ」

エドワルドの言葉に、ルートヴィヒは安堵した。

「どうか、それを竜丁にお伝えください。竜丁は、殿下の母上である王妃を死なせてしまい、殿下に申し訳ないと気に病んでおりました」

「今から行ってもいいか」

「今ですか」


 アリエルには、シャルロッテの水死体を引き揚げたことは伝えていなかったはずだ。シャルロッテの死は、公表されてはいない。後宮で働く者達は、口止めされた上に、後宮から出ることを禁じられていた。


 兵舎にいるアリエルは、竜騎士や竜の火傷の手当てをし、食事を作ったりしているだろう。死体が見つかったことを、アリエルだけに伝える必要があった。


「殿下がよろしいのであれば」

「私も行くよ」


 ルートヴィッヒはベルンハルトとエドワルドを伴い、シャルロッテの遺体が安置されている部屋を出た。部屋の外では衛兵が警備をしていた。廊下にも衛兵がいた。シャルロッテの死は当面、後宮だけの秘密とされる予定だ。 


「何人たりとも後宮から出すな」

「はい」


 逆を言えば、後宮に仕える者は、後宮内での行動は制限されていない。それでも後宮の侍女に、シャルロッテの遺体に付き添うことを願い出る者はいなかった。遺体の処置だけすると、全員、自分の部屋に戻ってしまっていた。荷造りをして出ていく準備をしている者が大半だ。

 

 王妃様は悲しい人だと思うの。ルートヴィッヒは、かつてのアリエルの言葉を思い出した。


 シャルロッテを助けることのできる者はいた。だが、彼は逃げ、戻らなかった。シャルロッテに仕えていた者は、誰一人としてその死を悼んでいない。


 ベルンハルトは、胸のつかえが取れた気分だといった。シャルロッテの死を公表するときには、悲しむ必要があるから、今は公表できない。晴れ晴れした気分を気取られたら困ると苦笑していた。


 エドワルドも、悲しくなくて不思議だといった。


 ルートヴィッヒも父親であった先王が死んだとき、そうかと思っただけだった。数年来、先王は病床にあったことは知っていたが、全く関心はなかった。庶子ではあるが、実の息子であるルートヴィッヒに顧みられることもない先王も、悲しい人だったのだろうか。


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