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6)騎士団本部

「陛下、水門を閉じてください」

火災が起きて以来、次々と上がる要求に対応していたベルンハルトも、ハインリッヒの一言にとうとう声を荒らげた。


「意味の分からんことを言うな。今が非常時だと分からんのか」

だが、よく似た顔でより厳格なルートヴィッヒの怒号に慣れているハインリッヒは、それくらいで(ひる)まなかった。


「団長、ラインハルト候からの伝言です。陛下、王宮の水門を閉じてください。高台の水門も閉じてください。火災現場で水が足りません」

ハインリッヒは、預かってきたルートヴィッヒの言葉を繰り返した。


「わかった」

冷静なハインリッヒに、ベルンハルトは己を取り戻し、控えていた書記官に命じた。


「王宮の水門を閉じたら、王宮内で水が使えなくなります」

別の書記官が言った。


「非常時です。非常用の井戸がいくつかあるはずですから、それで賄えるはずです。少なくとも騎士団の敷地には二つある」

騎士団長が答えた。

「竜騎士団の敷地にも一つあります」

ハインリッヒも続いた。


「陛下、ところで、竜丁は見つかりましたか」

影がついているならば、見つけていてもおかしくないとハインリッヒは期待していた。かつて影と同じ仕事をしていたという蝙蝠の腕を、ハインリッヒはよく知っている。


「は、君は何を言っている」

ベルンハルトの答えに、ハインリッヒは愕然とした。


「ご存じないのですか。今日、陛下の誕生祭の日、手薄になるのを狙って王妃は竜丁を誘拐する計画を立てていたのです。陛下はご存じかと」

ハインリッヒは、ルートヴィッヒに知るかぎりのことを全て伝えておいた。


「何だって。そんなこと、聞いてないぞ」

突如音が消えた部屋で、ベルンハルトの声が響いた。ベルンハルトはルートヴィッヒから何も聞かされていなかったらしい。一瞬の迷いを、ハインリッヒは切り捨てた。ルートヴィッヒに代わり、アリエルを救うと決めたのだ。

「すでに、竜丁は王妃の手の者に攫われています」

引き渡したのはハインリッヒだ。影に後を追わせ、誘拐の現行犯として、シャルロッテの身柄を捕獲する予定だった。


「ルーイは」

「影がついているはずだと。今、火災現場を離れることはできないと」

「ルーイ、人を弟と思って、少しは頼れ」

ベルンハルトが机を両手で叩いた。


「影は何をしている」

「俺以外は、後宮で探している。後宮で追えなくなった」

天井から声が降ってきた。

「何故、連絡がない」

「兄貴が、この件に関しては王様に知らせるなって。王様に手間をかけたくないって」

ベルンハルトは歯噛みした。


「ルーイは、いつも、いつも、いい加減にしろ」

いつもだ。年は変わらないくせに、ルートヴィッヒはいつも、ベルンハルトを弟扱いした。


「王宮内の警備兵も後宮に向かわせろ、王妃を捕らえろ」

ベルンハルトの命令を伝えるため、伝令が部屋を飛び出していく。


 シャルロッテの後ろ盾の侯爵を気遣っている場合ではなかった。アリエルに、もしものことがあれば、ルートヴィッヒがどれほど嘆くか、王都竜騎士団団長であり宰相代行である己の職務を優先し、アリエルを助けに戻らなかった自分をどれほど責めるか、想像に難くなかった。


「マーガレット、ハインリッヒと後宮に行け、お前は後宮の中を知っている。他の者より役立つだろう。双子の竜騎士も連れていけ。まだ近くにいるはずだ」


 護りたい女よりも、守るべき民を優先した自身を、ルートヴィッヒは責めるだろう。子供の時、ルートヴィッヒは、彼を庇って死んだ護衛騎士の遺体に取りすがって号泣していた。やがて泣かなくなり、笑わなくなった。アリエルが現れてから、少しずつルートヴィッヒに表情が戻っていた。


 また泣くのか、また笑わなくなるのか。

「少しは、私に頼れ」

ベルンハルトは返事が無いことを承知で、空へ怒鳴った。


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