27)御前会議2
御前会議に並み居る貴族達は、緊張の面持ちでいた。
今日、ようやく宰相代行が御前会議に現れるのだ。ベルンハルト国王が宰相を廃して数年、空席だった席に人が座る日が来た。代行とはいえ、その人物が、次の宰相になる可能性が最も高い。
最強の竜騎士、無敗の竜騎士、ルートヴィッヒ・ラインハルト侯爵。国王ベルンハルトの異母兄の登場を全員が待っていた。
国王とともに、現れた男を見て、御前会議の場がざわついた。
国王によく似た顔の体格の良い男が、竜騎士の平服を着て現れたのだ。その後ろには、黒髪の流民の血を引く顔をした女が控えていた。会議の場である御前会議に、二人とも長剣を佩いたままというのも異例だった。
「おそれながら、陛下、そちらの御方が宰相代行様でいらっしゃいますでしょうか」
既に公表されていることを、侯爵がわざわざ口にした。
「お見知りおきを」
ルートヴィッヒは顔色一つ変えず、侯爵を一瞥した。ルートヴィッヒは声も、国王によく似ていた。御前会議に初めて現れた二人は居並ぶ有力貴族達に動じた風もなく、国王の傍らの空席だった宰相の席と、その後ろの書記官の椅子に腰を下ろした。
「しかし、御前会議の場にそのような、出で立ちとは」
「私は代行です。いずれ宰相にふさわしいお方を陛下がご指名されるまでの代行ですので、宰相にふさわしい出で立ちなどおこがましいこと」
ルートヴィッヒは予定通りの言葉を紡いだ。
「ご同行は」
「私の書記官です。なにか問題が」
「女性とお見受けしますが」
「なにか問題がありますか。私の執務を手伝っているのは、この者です」
ルートヴィッヒは小首をかしげ、考えるようなそぶりを見せた。
「書記官が女性など異例です。聞いたことがない」
「では、今、ご覧になっておられるからよろしいでしょう」
予測された質問を、切り捨てるとルートヴィッヒはベルンハルトを見た。
「陛下、予定の議題に関して、御前会議を始めてもよろしいでしょうか」
ベルンハルトは静かに頷いた。
御前会議の舵が、貴族の手から離れた瞬間だった。




