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25)蝙蝠

 エーリヒが部屋を出て行く前から、この人たちの頭の中に、エーリヒのことなどないのだろう。ライマーは、熱心に話し合う三人を見ていた。


「あと二千枚は、どう工面するつもりなんだ」

「どなたかからの賄賂でしょうか」

「政治に関わらない王妃だ。賄賂を送る意味がない」

「慈善事業関連で関係する業者が、仕事の見返りに賄賂とか。でも、そもそも関わっておられませんし」

「慈善事業で、何かを売り買いするときはリヒャルトの実家の商会を使っている。氷の商売も、騎士団や竜騎士団の必要物品も、王宮も大半が、あそこを通しているが、それは不正がないからだ。実家が不正を働けば、王家への犯罪だ。リヒャルトの首が危ない。騎士団にリヒャルトの弟もいる。弟も同様だ。言い方は悪いが、こちらは二人人質をとっている。あの商会は不正が出来ない」


「あの、恐れ入りますが、後宮に出入りしている商会は、リヒャルト様のご実家ではないと、以前にお伺いしました」

ライマーは、勇気を振り絞り、三人の会話に食い込んだ。

「どこだ」

「わかりません。あまり評判の良くない連中だとリヒャルト様はおっしゃっていました。姉の、シャルロッテ王妃の評判は、商人の間でも良くなくて、彼のご実家は面倒を嫌って、後宮から手を引いたと」


「金貨二千枚の出どころになりうるか」

「偽の商取引とかでもできるでしょうし」

「ライマー、よく言ってくれた。ただ当面、お前は騎士団でも絶対に一人になるな。とはいえ、西方の他の竜騎士がどこまで改心したのか。騎士団の中で分けるか」


 ルートヴィッヒが眉根を寄せた。騎士団の責任者達は、騎士団の御前試合でルートヴィッヒが優勝して以来、非常に好意的に接してくれている。実力がある者が上に立つという彼らの考え方に合致したらしい。その分、いろいろ彼らに負担を強いている。


 孤児院で、子供たち相手の剣の稽古もその一つだ。騎士や竜騎士になれそうな優秀な子供を探したいだけなのだが、何せ子供を教えるのは手間がかかる。不平不満もあった。お前たちが親父になるための稽古だという、騎士団長の一言で、不平不満は封じられた。


「ルーイ、一度に全部解決しようとして、無理をしないでね。君はすぐに自分を犠牲にする」

「陛下」

「だって、いつもそうだった」

「気を付けます」

「エドワルドも私も、楽しみにしてるからね」

ベルンハルトが意味ありげに笑い、アリエルが頬を染めた。


「遅くなりました。帰ります。ライマー、騎士団まで君を送ろう」

ルートヴィッヒが立ち上がり、アリエルの手を取った。

「いえ、私は」

「一人になるなと言ったろう。先ほどの鴉ではないが、確かに王宮内は、入ろうと思えば入れる場所が数か所ある」


「ライマーは俺が送るよ。竜丁ちゃんが遅くなるのは可哀想だ。送ったら俺、また消えるから」

窓際にいたカールが伸びをした。

「気をつけろよ」

「大丈夫って。鴉みたいに腕は落ちてねぇ。あ、あと竜丁ちゃん、そのうち鴉も連れて飯食いに戻るから、そん時よろしく」

「あらかじめおっしゃっていただくか、人数が多い日を避けていただけましたら、いつでもよろしいです」

アリエルは微笑んだ。


 ライマーはカールと並んで歩いていた。

「あー。俺も嫁さん欲しい。旨い料理を作ってくれる、優しい嫁さんがいい。陛下を見てて、嫁さんなんていらねぇって思ってたけどな。ライマー、お前、嫁さんどうするの」

「あの、蝙蝠副団長様、今、かなり僕としては何とも申し上げにくいことを、あなたはおっしゃったのですが」

「そういや、伯爵家の次男か。どっかに婿入りするわけ」

「それができればと思いますが、難しいと思います。いろいろ、まぁ、その、あなたが嫁がいらないと思われた方は私の異母姉でもありますので」

「お前も大変だな。ま、ラインハルト候なりに、お前のこと心配してるから、悪いようにはならんだろ」

「はぁ」

「候はいい奴だ。だから、ライマー、もし万が一、お前が候を裏切ったら、俺はお前を許さねぇ。それだけは覚えておけ」

「絶対にそれはありません。ラインハルト侯は命の恩人です」

「期待してるよ」


 騎士団宿舎に着くと、カールはそのまま闇に消えて行った。


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