16)王妃3
執務室に戻るなり、ルートヴィッヒが窓を開け、申し訳なさそうに着替えてきてくれと言ったのもよくわかる。アリエルは、化粧を落としてもらって着替え、ようやく一息ついた。
「何が目的だったのでしょうか」
アリエルは首を傾げた。
「マーガレット、君はどう思う」
ベルンハルトに促され、マーガレットは口を開いた。
「単純に、王妃様はあなたを呼び出すことができる、権力がある人間だと示したかったのだと思います。あと、お顔を確認されたかったのかと」
「権力は王妃様のものでなく、ベルンハルト様の権威によるものでしょうに、ずいぶんと不思議なことをお考えですね」
アリエルは時に辛辣だった。
「私の顔を見て、何になるのでしょう」
「そういうお前は、王妃の顔を見てどう思った」
ルートヴィッヒの質問に、アリエルは正直に答えた。
「お化粧が濃くて、もともとの御顔立ちがよくわかりませんでした」
アリエルの発言はそれほどの意図はなくても、化粧無しで、元の顔を晒すことができないという意味にもとれる。
「次に会ったときに、わかるか」
「お顔より、香水をつけすぎていらっしゃる方という印象が強いです。おそらく匂いでわかるのではないでしょうか」
大真面目なアリエルの言葉に、男達は笑いをこらえられなくなった。
「どうするつもりだろうね」
「わかりませんけど、今回では終わらないでしょうね」
机の陰で、アリエルの手を、ルートヴィッヒがそっと握ったのが見えた。
ベルンハルトは別の封書を手に取った。
「時期がいいのか、悪いのか、わからないときに謁見を申し込んできた貴族がいてね。竜丁ちゃん、いつもの私たち以外に三人分多く作ってくれないか。護衛騎士達を使ってくれていい、あぁ、マーガレット、もし君が良いのならば、竜騎士団のところで、竜丁ちゃんを手伝ってあげてくれ」
その封書を見たルートヴィッヒの顔にも、難しい表情が浮かんだ。
「確かに、この書状が今頃届くなど、何を考えているのか、疑ってくれと言わんばかりですね」




