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5)宰相代行1

 宰相代行を置くというベルンハルトの言葉に、貴族達は浮足立った。当面はベルンハルトの執務室で彼の補佐に当たるとの言葉に、何とかして謁見し、それが誰かを確認しようと貴族達は必死になった。


 謁見を許可された貴族は、ベルンハルトが二人いると最初は驚いた。次に、もう一人のベルンハルトが、左目の下に傷のあるルートヴィッヒであることに気づき、さらに驚愕した。その横にいる竜丁の服を着た女が、書記官のように彼の仕事を手伝っている様子に、唖然呆然とした。


「面白いね」

貴族らしく上品に振る舞い、謁見を辞する彼らの様子をベルンハルトは観察していた。単純に驚く者、興味を示す者、嫌悪感を示す者まで様々だ。


「ある程度、線引きができるね」

ベルンハルトの言葉に、アリエルは微笑んだ。書記官達は、詳細に記録していた。


 ルートヴィッヒの背後にある壁には、槍と剣が飾られ、彼が武人であることを示していた。飾りでなく、いつでも使えるように手入れされていることを知るのはごく一部の者だけだ。執務室付きの侍女となったマーガレットは、護衛騎士達が物々しく控え、有事のようだと感じていた。


 マーガレットは、王都竜騎士団の女竜丁に会ってみたかった。護衛騎士達は、女竜丁を竜丁様と呼び、一目置いているようだった。王妃や、王妃に近い貴族達は、悪しざまに彼女を罵った。だが、チェスの相手であるクラウスは、王妃周囲の噂を根拠の無いものだと言い、会えばわかるとだけ言った。


 漆黒の剣帯を締め、黒い長剣を腰に佩いた黒髪の女は、初めて会うマーガレットに美しいカーテシーで挨拶をし、国王であるベルンハルトに臆する様子もなかった。兄の上官であるルートヴィッヒは、表情に乏しく、言葉少なで、武官を多く輩出する男爵家の娘であるマーガレットすら少し恐ろしく感じた。竜丁と呼ばれる女は、そんなルートヴィッヒを恐れなかった。


 名前を聞くと女は微笑んだ。

「竜丁とお呼びいただけましたら、十分です」

兄であるハインリッヒから聞いた通り、誰も彼女を名前で呼ぼうとしなかった。


 アリエルは有能だった。ベルンハルトに長年仕えてきた書記官達は、彼女を歓迎した。疲れた、飽きた、つまらない、面白くないと、兄弟が仲良く愚痴を言い出すと、アリエルは上手に気晴らしをさせ、また仕事に取り組ませた。


 ある日のこと、ベルンハルトは仕事が嫌だと、手に負えない子供のようなことを言い出した。アリエルが宥めても、全く仕事に取り掛かろうとしない。生真面目なルートヴィッヒが、苛立ち、殺気めいた怒気を発し始めたころ、アリエルは、とんでもない発言をした。


「せっかくですから陛下、団長様と少しお稽古をなさってはいかがでしょう」

満面の笑みを浮かべ、二本の木剣を持ったアリエルに、ベルンハルトは呻いた。


「竜丁ちゃん、それ、どこから持ってきたの」

「さぁ。どこからでしょう」

「陛下、少し体を動かしましょうか」

ルートヴィッヒは怒気を納め、嬉々として立ち上がった。


「いい、仕事する」

嬉しそうに木剣を手に取ったルートヴィッヒの笑顔と、拗ねたベルンハルトに、マーガレットは笑いそうになる口元を引き締めた。


「竜丁、少しどうだ」

廊下でルートヴィッヒはアリエルを相手に、軽く手合わせを始めてしまった。しばらく見ていてマーガレットは気づいた。アリエルは決して上手くはない。だが、腰の長剣は飾りでないことが、マーガレットにもわかった。


 護衛騎士達はそんな二人をうらやましそうに見ていた。

「ずいぶん、お上手になられました」

「私もぜひ一度、ラインハルト候に稽古をつけていただきたいものです」

「本当に」

「竜丁様も、そろそろ、刃をつぶした剣でも、稽古できそうですね」

「我々で用意をしてはいかがでしょう」

「竜騎士団にあるものは、刃をつぶしてあるとはいえ、切れますからね」

執務室に、稽古用の木剣と、刃をつぶした剣とが二振りずつ用意されるようになった。


 ベルンハルトは、半ば強制的に剣の稽古をさせられるようにもなった。

「ある程度のことはできていただかないと、こちらも警護が困難です。かつては稽古をご一緒させていただいたではありませんか。そのうちに、エドワルド殿下に追い付かれてしまいますよ」

「ルーイは手厳しいねぇ」

ベルンハルトは、文句を言いながらも、兄のルートヴィッヒの言うことには従うことが多かった。


「お二人が、仲良しでうれしいです」

かつて王位継承権の一位と二位であった二人が、当時から仲が良かったことを知る者は少ない。


 マーガレットと違い、先入観がないアリエルは、二人の関係を素直に受け入れているようだった。


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