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4)王都竜騎士団団長と竜丁と王都の人々

 王都へ近づくにつれ、ルートヴィッヒの顔は厳しいものとなった。


「ルーイ」

明日は王都へ着くという夜、アリエルはルートヴィッヒの頬を両手で包んだ。

「焦らないで。全部を一度に解決するのは無理です」

「あぁ」


 出発の前日、村人たちが用意してくれた宴、彼らなりの祝いの気持ちがうれしかった。だが、その分、アリエルを妻に迎えることができない現実が、突き付けられ、ルートヴィッヒは辛かった。側にいてくれるという気持ちは嬉しい。それに甘んじる自分を許すこともできなかった。自分自身ですら許せないことを、受け入れてくれるアリエルに甘える自身が卑怯に思えてきた。


「来年は、北の領地でゆっくりしたいです。だから、今年はまず、物騒なことを企むお方を何とかしましょう。生きていれば、順番に一つずつ解決できます」


 アリエルに焦りを指摘され、ルートヴィッヒは苦笑した。

「全部、一度に解決できません。だから、一つずつ、頑張りましょう。味方してくれる人もいます。だから、きっと大丈夫です」

「あぁ、そうだな」


 少なくとも、北の領地は二人にとって絶対に安全な場所になってくれる。王宮では、ルートヴィッヒを嫌う貴族は多い。だが、護衛騎士はアリエルに好意的だ。ベルンハルトの影も、ルートヴィッヒとアリエルに好意的だ。竜騎士の指揮権も騎士の指揮権もルートヴィッヒが持つ。ルートヴィッヒを超える影響力を持つのは国王のベルンハルトだけだ。貴族の私兵はともかく、武力が掌握できていることは大きい。


 ルートヴィッヒもアリエルも知らないことだが、王宮や王都では、二人に関して好意的な者が増えつつあった。


 シャルロッテが放置していた慈善事業を、ルートヴィッヒとアリエルが引き継いだ。女性のアリエルの視点により、孤児院や救護院の環境は改善した。


 王都で一時期、蝙蝠と名乗っていたカールと一緒に用心棒をしていたルートヴィッヒは、貧民街で仕事にあぶれた者達を、王都の掃除人として雇い、給料を支払う制度を始めた。


 掃除人から始まり、道路の修繕や、様々な王都の整備事業に雇われる者が増えた。仕事を覚えると、それは技能となる。様々な仕事の経験を積み、王都を離れ各地で働く者も現れた。各地の貴族の目に留まることもある。


 読み書き計算、繕い物や刺繍、大工仕事などを孤児院や救護院で教えるように提案したのはアリエルだった。出来上がった品で一定の基準を満たす物は、商品として販売され、各所の収入になった。


 ルートヴィッヒは希望者が基本的な礼儀作法を身に付けられるように、教育係も送り込んだ。教育係が一定の水準に達したと判断した者には、服を用意してやった。きちんとした身なりで礼儀作法を心得、仕事が出来る者達は、あちこちの屋敷で雇われるようになった。使用人は楽はできないが、路頭に迷うことはない。


 仕事を持つ者が増えれば、犯罪に手を染める者が減る。


 シャルロッテの代行としてエドワルドが慰問を行うようになり、慈善事業はエドワルドとアリエルの二人が主に担うように変わった。エドワルドは、様々な新しい政策へ感謝する王都の者に、王妃ではない別の人間の提案だと公言していた。どこにでも察しの良い者はいる。


 エドワルドが別の人物の存在を口にする都度、彼を警備しているルートヴィッヒは、少し困ったような顔をした。王都の者がエドワルドに問題を奏上すると、エドワルドは決まってルートヴィッヒに話しかけた。彼らは小声で相談し、帰ってから、竜丁に相談しようと言った。小さな声でも耳をすませていれば聞こえるものだ。王都竜騎士団の竜丁は王都では有名だ。


 竜騎士団の年に一度の御前試合は、貴族だけでなく、王都の者の娯楽でもあった。昨年、女の身でありながら、手綱も使わずに竜を従えていた姿は、王都の者達の目を引いた。さらに今年は、黒い剣帯に長剣を下げ、明らかに他の竜丁とは一線を画していた。事故に動揺していた竜を、一声で宥め、着陸させ落ち着かせた女竜丁は、竜や竜騎士に憧れる者達の目に焼き付いた。落下した別の団の竜騎士を、身をもって助けた王都竜騎士団団長であるルートヴィッヒとともに、王都の噂を攫った。

 

 多種多様な人材が集まる王都竜騎士団の竜騎士たちも、彼らの人脈を駆使し彼らの団長と、竜丁の味方を増やしていた。


 リヒャルトの実家は、大きな商家だ。正確には、巨大な商会を束ねていた。王宮に出入りする商人の多くが、リヒャルトの実家の商会に所属していた。商人たちは、愛想がよく、無理に買い叩こうとしないアリエルに好意的だった。頼まれてもいないのに、珍しい、面白い品を彼女のために持ってきてくれた。彼らは、以前から、ルートヴィッヒに好意的な噂を、王宮の内外で振りまいていた。ついでにアリエルの噂を広めるくらい、造作ないことだった。


 エドワルドの教育係たちは、同じ学者仲間にルートヴィッヒとアリエルのことを好意的に伝えていた。学者肌の貴族の中には、二人に興味を持つ者も増えた。


 アリエルの作る一風かわった料理は、厨房で働く者達の興味を引いた。ベルンハルトとエドワルドが月一回嬉しそうに出かけていくのだ。一時期、ゲオルグは王宮の厨房に頼まれたと、蒸し器を山ほど作っていたことがある。


 跡を継いで石工にならないならば出て行けと、息子を追い出したペーターとペテロの父も、結局は息子達が可愛い。年に一度の冬の祭りのために、彼らに家に帰るようにと説得してくれたアリエルに、感激した。石工は、城門を作り、王宮を作り、教会を作る、誇り高い技能集団だ。彼らの顧客は財力にあふれる有力者達だ。


 鍛冶屋のポールの父や仲間達は、最強の竜騎士という立場にありながら、自ら剣の手入れを怠らないルートヴィッヒを、騎士の鑑と考えていた。アリエルが、女の身でありながら、剣の鍛錬に励み、剣の手入れを怠らないと知り、会ったこともないのに好意的だった。


 噂が広まるのは止まらない。国王陛下の剣と盾、国王が全幅の信頼を置く庶子の兄である最強の竜騎士の傍らに、慈愛に満ちた女竜丁がいて、彼を支えているという噂は、王宮にも、王都に広まっていた。

  


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