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幕間 騎士団のハンスとルートヴィッヒとアリエル

 イグナーツから相談され、許可したことは覚えている。ルートヴィッヒは冗談だろうと思っていたが、騎士団のハンスは本当にやって来た。ルートヴィッヒは来訪の意図を測りかねていた。食事だけが理由で来るとは、思えなかった。

「確かに、最大多くても三人までとお伝えしましたが、本当に三人お連れになりましたね」


 ルートヴィッヒの言葉にハンスは悪びれた様子もなかった。

「これでも厳選した三人です。ぜひ。それで、あの」

ハンスの表情に、アリエルの言葉を思い出した。軽食が欲しいときのエドワルド殿下の顔と、お代わりが欲しいときのルーイと陛下のお顔が一緒なのですと、アリエルは笑っていたが、他の人間も同じ顔をするらしい。


「イグナーツから聞いてはいますが、良いのですか。騎士団の食事の調理は、王宮の専門の調理人が担っているはずです」

「イグナーツのことは子供のころから知っています。彼の父親の剣を使っています。あの生意気な子供が喜んで食べているときいて、興味を持ちました」

「そうですか」

ルートヴィッヒもイグナーツの父親は知っている。実際に剣を鍛えてもらってもいる。イグナーツの子供のころは知らないが、彼は父親の客が稽古相手だったと言っていた。護衛騎士や竜騎士がエドワルドの相手をしてやっているようなものだろうか。そう思うと、期待に満ちた目をしたハンスを断る気になれなかった。


 ハンスに連れてこられた三人の騎士達は、竜騎士達と稽古を始めていた。厳選したというだけあって、良い手合わせになっている。


 ルートヴィッヒは、ふと思いついてハンスに声をかけた。

「ちょっと、竜騎士とは違う者と手合わせをしてもらいたいのだが、いいだろうか」

ルートヴィッヒのいう手合わせの相手に、ハンスは心当たりがなかった。

「ラインハルト侯が問題ないと思われるのであれば、お受けしましょう」

ルートヴィッヒについて、鍛錬場を出た。


「普段、竜騎士や護衛騎士という、限られた相手としか手合わせをしたことがない。腕力はないから、実戦ではおそらく無力だ。ただ、器用で筋がいい。自分の腕前が分かっていない。自惚れてもらっても困る。上手く勝って頂きたい」

ハンスが案内されたのは竜舎だった。ルートヴィッヒが言う相手は、王都竜騎士団の女竜丁、アリエルだった。


「始め」


 ルートヴィッヒの合図で、互いに木剣を構えた。護衛騎士や竜騎士という、この国でもずば抜けた腕を持つ人間としか手合わせをしたことがないという女の腕前はどの程度なのだろうか。ハンスは相手を観察したが、少なくとも、女の構え方は型どおり完璧だった。


 軽く仕掛けてみた。


 切っ先が触れた瞬間、ルートヴィッヒが言った意味が分かった。技の一つ一つには力はない。こちらの動きを察して躱し、次の攻撃を放つまでの間が短い。実に、やりにくい相手だ。稽古では、有効となりうる部位に技を決めたほうが勝ちだ。切り替えの速さを武器に稽古では有効打を打ち込めるだろう。だが、この女の筋力では、真剣の一撃で致命傷を負わせることは無理だろう。自惚れてもらっても困るというルートヴィッヒの気持も理解できた。


 体格ではハンスが格段に有利だ。ハンスの木剣は、アリエルの胴を突く手前で止まった。

「勝負あり」


「ありがとうございました」

アリエルが丁寧に頭を下げた。

「私、どなたからも一本もとったことがありません」

騎士団でも指折りのハンスを手こずらせたことを知らないアリエルは、残念そうだ。


「ここでは相手が悪い。ただ、自分が強いなどと思うな。実戦になったら、お前の腕では、せいぜい相手をひるませ隙を作るくらいだ。勝負にもならん。何かあれば、逃げ道を作ることだけを考えろ」

「はい」

素直に返事をしたアリエルにルートヴィッヒの頬が緩む。


 竜舎から鍛錬場へ戻りながらハンスは苦笑した。

「なかなか。うちの若手では、あの子に勝てるか。器用な娘だ」

ハンスの言葉にルートヴィッヒは微笑んだ。

「えぇ。だからあなたに頼んだ。あなたであれば、あの子に怪我をさせることなく、確実に勝てる。あまり腕に自信を持ってもらっては困る。戦えるなどと誤解してもらっては困る。あれの筋力と体力では、実戦では勝てない。あくまであれには逃げてもらわないといけない」

「女は、逃げるに決まっているでしょう」

「いいえ。あれは、逃げなかった。あの腰の剣は、その功績に対してベルンハルトから賜った」


 毒で動けなくなったから、逃げられなかっただけかもしれない。だが、アリエルは倒れながらもエドワルドを庇った。

「あの剣を抜かずに済めばよいのだが」

それを決めるのは、残念ながらアリエルではない。ルートヴィッヒの心配は尽きなかった。


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