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49)駒の処罰

 早朝の訓練が終わり、一度解散になる。午前中の訓練が開始になるころ、ヴァルターに伴われて西方竜騎士団の竜騎士達がやってきた。全員に落ち着きがなかった。明らかに寝ていなさそうな顔をしている者もいた。


 王都竜騎士団と西方竜騎士団の全員が食堂で席に着いた。


 ルートヴィッヒの左にハインリッヒ、右にリヒャルトが座り、その隣に西方竜騎士団のヴァルターが座った。ライマーはハインリッヒの隣に座るように指示された。西方竜騎士団の竜騎士たちはそれに続いて座ることになった。


 王都竜騎士団の団長と副団長や竜騎士達に挟まれるような位置になる。初日の食事の際の穏やかな雰囲気とは全く違う、緊迫感が漂っていた。


「申し訳ありませんでした」

西方の竜騎士たちは、一つ一つ、何があったかを語り始めた。ライマーが思っていたよりも、多くの人間が絡んだ事件になっていた。彼らの話に、ルートヴィッヒは驚いた様子もなかった。


「どう思う」

ルートヴィッヒの視線はアリエルを見ていた。

「多くの人間に関わらせて、少しずつ役割を持たせることで、事件の全体像が見えなくなります。互いに疑心暗鬼になりますから、相談も出来ないでしょう。色々と考えたのでしょうね」

ライマーには想像もつかない返答だった。だが、ルートヴィッヒはアリエルの返事に満足したように頷いた。


「厄介な者達が西に多くなっておりました。ご迷惑をおかけしました」

ルートヴィッヒはヴァルターに言った。

「いや、もともと任されていたことを我々が出来なかっただけです。身内の恥です。お恥ずかしい限りです」


 ルートヴィッヒとヴァルターの会話は、ライマーには意味が全く分からなかった。西方の竜騎士たちも戸惑い、ライマーに視線を向けたが、ライマーは首を振ることしかできなかった。王都竜騎士団の竜騎士達は、あらかじめ何かを聞かされていたのか、落ち着いた様子だった。


「あなた方に、自分達から知っていることを話してほしかったのですよ。こちらで把握していないことも、いくつかありました」

静かなルートヴィッヒの声が響いた。

「あなた方は、駒として利用されただけです。黒幕は別にいる。私達は、黒幕が誰かということを証明する証拠が欲しいのです。あなた方、駒の処分など問題ではない」

ルートヴィッヒは、言い切った。


 伯爵家の騎士を、御前試合の競技場内の関係者以外立ち入りが許されないはずの西方竜騎士団の控室に招き入れライマーに会わせた者、鞍と手綱に切れ目をいれた者、それを竜に着けた者、実際にかかわった者が三人だった。ライマーと、ライマーに接触しそうになったもう一人を合わせると五人になる。あの日、御前試合にいた西方竜騎士団の五人全員がかかわっていた。


 誰かが、ヨアヒム団長に一言でも打ち明けていたら、あの事故は未然に防ぐことができた。西方竜騎士団が騎士団として機能していなかったことが事故の根幹にあるとルートヴィッヒは考えていた。


「いずれあなた方には、証言していただく機会があるかもしれません。その時も正直に、何があったか話してください」

ルートヴィッヒは、心底、処罰などどうでもよかった。必要なのは問題の解決なのだ。


「竜騎士は、国王陛下に忠誠を誓ったはずです。今回、あなた方は国王陛下が主宰される年に一度の御前試合を、事故で汚そうとする計画の一部を知り、加担しました。計画を知った段階で、西方竜騎士団の責任者であるヨアヒム団長か、ヴァルター副団長に相談すべきでした。忠誠を誓ったお相手を忘れたこと。あなた方の指揮権が誰にあるかを忘れたこと、それが問題です。ただ、それを忘れるような環境に西がなっていたことが、最大の問題です」


 西方竜騎士団は、貴族社会の縮図になっていた。今回の問題で、その頂点に立ち問題を作りだしていた数人を罷免することができる。その次の組織の立て直しも考えなければいけない。人を選ばねば、同じ問題の繰り返しになるだけだ。東と南には同じような問題は生じていないが、今後も無いとは限らない。


 来年、竜騎士見習いを集める。早い時期に今回のような問題が起きないように教育しておく必要があるだろう。ルートヴィッヒは、次のことしか考えていなかった。

「来年、見習いの教育担当は東だが、打ち合わせが必要だ。打ち合わせにきたはずのカールが飛び出して行ってしまったし、誰か東へ飛べるか。それまでに、西の問題も片付けておきたいので、ヴァルター殿、ヨアヒム殿のお考えも聞きたいのですが」


 ルートヴィッヒの両隣に座る、リヒャルトとハインリッヒは顔を見合わせた。ルートヴィッヒが、処罰におびえる西方の竜騎士たちのことなどすっかり忘れているのは、彼らには明白だった。

「団長、お忘れのようですが、先のことを決める前に、決めるべきことがあるのですが」

「何を」

「あのですね、団長。彼らは事件を起こしたのです。だから、あなたは彼らに処罰を与えなくてはいけません」

「あぁ」


 ハインリッヒとリヒャルトの言葉が耳に入ると同時に、ルートヴィッヒの目に唖然としている西方の竜騎士たちが映った。ルートヴィッヒは処罰の内容を決め、根回しもしていた。ただ、口にするのを忘れていた。

「忠誠をはき違え、上官に必要な報告もしない君たちの行動は問題だ。他にも、細かいことを言うが、西方で自分の装備を自分で点検しないのが常態化しているのも問題だ。ちょうどよく、騎士団の預かりになっている。騎士団の教育係には話を通してある。一度、教育と訓練を一から受けなおしてこい。ライマー、君もだ。もう落ち着いたようだし、君も関わっている以上、彼ら同様処罰されるべきだ。騎士団の宿舎で、他の者たちと一緒に鍛えなおしてきなさい。その間、竜の世話は自分たちですること。丁度、競技場の竜舎が空だから、そこを使うように。処分は以上だ」

「はい」

「はい」

厳しい処罰を想像していたであろう竜騎士たちは、ライマーに遅れて返事をした。


「ラインハルト候、寛大なご処置をありがとうございます」

ヴァルターが言い、立ち上がると頭を下げた。ライマー達竜騎士もそれに続いた。

「正直に話してくれたので、こちらとしても今後の対応を検討しやすくなりました。罪を犯したと思うならば、自ら悔い改め、今後の行動を改めてください」

処罰そのものは、厳罰ではない。だが、今後の行動で示せというルートヴィッヒの方針は、それはそれで厳しいものでもあった。


「あ、団長、もしかして昨日、騎士団にいかれたのは」

イグナーツは、昨日、ルートヴィッヒに騎士団の敷地で会ったときのことを思い出した。

「昨日の今日で、頼めることではないだろう」

ルートヴィッヒは否定した。弱すぎる西方竜騎士団を騎士団で鍛えなおしたらどうだというベルンハルトの考えを聞いた時点で、騎士団には依頼していた。昨日は、その最終的な打ち合わせと、今後宰相として彼が王宮に出入りする際に生じうる問題の検討が目的だった。


 西方竜騎士団の団長であるヨアヒムには、今回の事件に関してできるだけ調べた上で、事件に関係していた竜騎士をこちらに寄越すようにと伝えておいた。ヨアヒムが言葉通りにし、かつ、彼らが正直に話したことで、もとから予定していたことを進めやすくなっただけだ。


「ヴァルター殿は、西方にお戻りください。ヨアヒム殿の補佐と、他にもお願いしたいことがあります」

西方竜騎士団をこのままにはできないのだ。


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