45)西方竜騎士団3
「お久しぶりです」
ライマーはかつての仲間に挨拶をした。
「お久しぶりです。ライマー殿」
ライマーは何を言うべきか迷った。彼らも何と言っていいかわからないようだった。
「今、王都竜騎士団に世話になっています。今後、王都竜騎士団への移動をお願いしています」
「それは聞いている。本当に君の希望なのか」
「はい」
ルートヴィッヒに関する噂は多い。彼の領地が北にあることから北の竜侯、氷の竜侯とも言われるのは、領地が北にあるからだけではない。彼が王位継承権第二位を持つ前から、庶子のくせに、厄介者、身の程知らずと罵るものも多かったと聞いている。父からは何度も、そう聞かされていた。
実際のルートヴィッヒは、噂のような恐ろしさも、冷酷さも、強欲さも、傲慢さもなかった。言葉少なく、思慮深く、思いやりのある人だった。
ルートヴィッヒは、ライマー達が見習いとして訓練をうけていた期間に、見習い一人一人に声をかけてくれていた。時折見習いの訓練を見に来る竜騎士が、王都竜騎士団団長、この国の竜騎士の最高峰とされるルートヴィッヒだと知ったのは、見習い期間が終わった日だった。
「私は、私の知っていたことを、全てお話ししました。ラインハルト侯は、私を助けたせいで、大怪我をなさったのに、君の命が狙われていたといって、事故に関して一切私を責めようとなさいませんでした。私は、命の恩人であるラインハルト侯の御恩に報いたいと思ったのです。公正な方です。本当のことをお話ししたら、きっとご理解くださいます」
ライマーは、見習いの時、ルートヴィッヒに声をかけてもらったことを思い出した。
「自分の道具は自分で手入れした方が良い。君自身の命を預けるものだ」
貴族の次男であるライマーは、常に下男に任せていた。竜騎士見習いになったときも、当然のように竜丁に任せようとしたときに、ルートヴィッヒに言われた。
実際、王都竜騎士団では全員、手綱も鞍も剣も何もかも、彼らは自分で手入れをしていた。手綱や鞍を自分でつける者の方が多い。着けるのも外すのもアリエルが手伝ってくれるが、女性に手伝わせるのは気が引けた。彼女の背丈では、鞍や手綱を片付ける棚の一部にしか背が届かない。アリエルのためにゲオルグが作ったという踏み台があるが、そこまでして女性に手伝わせたいとも思えなかった。
なにより、ルートヴィッヒとアリエルが互いに向ける視線に気づいたとき、ますます頼みづらくなってしまった。
自分の装備の一切を、他人に触らせようとすらしない者も多かった。西方では、竜丁と平民出身の竜騎士たちにすべて任せていた。手入れなどしたこともなかった。家にいたころ馬具の手入れを使用人達に任せていたのと同じだった。
ライマーは、思い出した言葉に愕然とした。ルートヴィッヒの忠告を守っていたら、今回の事件はおこらなかったのだ。彼の言う通り、自分の命を預ける道具を、自分で管理していたら手綱の切れ目に気づいただろう。ライマーは転落しなかったのだ。
「私は、あの方に、本当に申し訳ないことをしてしまったのです」
ライマーは言葉が続かなくなった。
突然、騎士の一人が、ライマーを誘いに来た。
「お前、イグナーツの連れだよな。せっかくだからイグナーツの雄姿を見てやれよ」




