37)兄ルートヴィッヒと弟ベルンハルト
「そろそろ宰相を任命されてはいかがですか」
「宰相として申し分ないくらい素晴らしい成果を発揮しているルーイが、一番適任だ」
ベルンハルトの言葉に、食堂も廊下も水を打ったように静かになった。
「私は王都竜騎士団の団長です。宰相の職務と兼任できる仕事ではありません」
ルートヴィッヒの声が響いた。
「ルーイ、いつか君も年を取る。ずっとは竜騎士でいられないだろう。先代のゲオルグだって引退した。引退してからでいいんだ。竜騎士を引退したあと、正式に宰相に就任してくれ。若いエドワルドを支える宰相になってほしい」
ベルンハルトの言葉に、ルートヴィッヒが唇を噛んだ。
「そのような、先のこと」
「考えてなかったろう。私の戴冠式まで生き延びられるかもわからなかったものね。でも、当時と比べたらましだろう。エドワルドの戴冠式まで生き延びて、宰相としてエドワルドを支えてほしい」
本当に考えていなかったのだろう。ルートヴィッヒが少し遠くを見て考えているようだった。
「仮に私が、あなたのおっしゃるとおりにしたとして、その場合、あなたは」
「いや、王都を離れてゆっくりしたいなとか思って、いや、ないない。それはない」
ベルンハルトは途中から慌てて否定した。
「思っておられましたね」
「ルーイが怖い」
「ごまかさないでください。それに、それまでの間、宰相の問題は放置ですか」
「いや、だから、ルーイが、宰相代行になって」
「宰相の問題は、そもそもが、貴族の問題でしょう」
「私一人で解決できる問題でもないよ」
「そこに私一人加わり、二人になったところで大きくは変わらないでしょうに」
「だから、君の竜丁ちゃんも連れてきてくれたら」
「巻き込んでいただいては困ると申し上げたはずですが」
食事をしながら、徐々に剣呑な雰囲気が漂い始めた。
「団長様」
剣呑な雰囲気をアリエルの声が破った。
「どうした」
「あの、食べきれそうにないので、よかったら」
アリエルの持つ皿には、半分に切った肉の塊が載っていた。
「体調でも悪いのか」
「いいえ。作るときに味見をしたのもあって、ちょっと半分で、どうしても、おなかがいっぱいで食べきれません」
「本当に体調は大丈夫なのか」
「はい」
「では、いただこう」
ルートヴィッヒはアリエルの皿を受け取った。ベルンハルトもエドワルドもそんな二人を見守っていた。




