26)ライマーからルートヴィッヒへの告白2
「陛下!」
「久しぶりだね。ライマー。君も大変だったね。ルーイがいなかったら、事故を装って、王妃に殺されるところだったとは」
ライマーは、公の場での面会とは全く違う、気さくな口調のベルンハルトに唖然とした。
「陛下、外聞の悪いことを、大きな声でおっしゃるなんて。誰かに聞かれたらどうなさるのですか。それに王妃様を陥れようという誰かの企みかもしれません」
ベルンハルトの真後ろからは、アリエルが現れた。
「影達が聞いているけど問題はない。他に人はいないし。誰が企んでいるにしても、ライマーを殺すつもりだったのは確実だ。竜丁ちゃんの件との関係も考える必要があるだろうけれど。ライマーの事故は、王妃以外に黒幕候補がいない」
無礼な竜丁の態度を、国王であるベルンハルトは気にしている様子もなかった。
「今日、お忍びだから、私と会ったことは内緒だよ」
「はい」
笑顔だが、目が笑っていないベルンハルトの言葉にライマーは、なんとか返事をすることが出来た。
「思っていたより、問題が多くなったね。第一は、おそらくは王妃に狙われている君達の身の安全の確保だけど。他に、王妃をどうするかだ」
自らの妻に対する態度としては、ベルンハルトの言葉は、他人行儀で手厳しく聞こえた。
「この手綱や鞍は、何かの証拠になりますか」
「切った瞬間に捕まえないと無理だろうね」
アリエルの言葉をベルンハルトは否定した。
「西方竜騎士団の竜騎士か、何者か忍び込んだかもしれない。ライマーに伝言をもってきた伯爵家の騎士が小細工したか、まぁ、誰にでも可能性があるよ」
「竜騎士だとは思いたくはありませんが。忍び込む必要もなく、手綱や鞍について知識はあります。残念ですが、可能性は高い」
ライマーの転落に仲間が関わっている可能性を指摘したのは、ルートヴィッヒだった。
「もう一つ質問ですけど、王妃様はお金持ちですか」
「なぜ」
アリエルの言葉にベルンハルトは先を促した。
「だって、私の殺害依頼のお金、安くはないそうですよね。あと、手綱を切る細工を、ご自身でなさるわけがありませんし。無料でそんな危ないことしますか。鞍や手綱は各騎士団の竜の近くに置いていたはずです。余所者が鞍を触っているのを、竜騎士達に見つかったら、大変なことになるはずです。他人に触られることを嫌う方も多いですし」
「確かに、仮にハインリッヒが見つけようものなら、問答無用でその場で始末しそうだな」
アリエルの言葉にルートヴィッヒが続けた。
「彼、自他ともに厳格だからねぇ。ルーイも子供の頃から馬具を人に触らせなかったなぁ。懐かしい」
ベルンハルトも動じた風もない。問答無用の始末が、厳格という一言で済むのだろうか。
「今回の黒幕、おそらくは王妃が、次に何を企むかも問題だ。おそらく、ルーイ、竜丁ちゃん、ライマー、君達三人狙われているわけだ。まとまってここに居てくれると警護しやすいはずだけど。一番頼りになるはずのルーイが大怪我だ。日中は、エドワルドが護衛騎士を連れてここで過ごすと言っている。止めても無駄だからね。決定事項だ。問題は夜だ。竜騎士は、自分の腕と竜とで、自分の身を護るという前提だから、この一帯の警備が手薄だ。大捕物が心配なのは王宮だからね。このあたりへは、警備兵の配置も難しい」
「竜を放していますが、彼らは建物の中には入れません。部下も人数を厳選していますから、そうそう不寝番など勤めさせられません」
「ルーイのためなら、頑張ってくれると思うけど」
「部下に無理はさせられません」
「ルーイは優しいからねぇ」
厳しくも優しいこの団長のためなら、竜騎士達はどこまでもついていくだろう。
不寝番のことは、すでに竜騎士達の間でも相談がされていた。副団長のリヒャルトとハインリッヒが配置も含めて順番も決めて、いつでも実行できるように準備していた。あとは団長の許可をもらうだけだが、それが最大の難関だと眉間に皺を刻んでいた。
「俺達全員、やる気満々なんだけど、一番難しいのが団長の許可だ」
「国王陛下の剣と盾である以上、陛下のために働くならともかく、団長でしかない自分のために無理するなとおっしゃるに決まっている」
「こっそりやっても、絶対に見つかるだろうし。まぁ、見つかるくらい元気になったら、不寝番もいらないか。見つかるまで、こっそりやるのもいいかもな」
「いや、実はアルノルト様にもそれとなく聞いてみたが、すぐに気づくに決まっているだろうと一蹴された」
「団長、頑固だもんなぁ」
「あ、竜丁の警護のためっていったらどうよ」
「そんなの、竜丁が遠慮するに決まってるだろ」
「ニンジンを覚悟でハインリッヒ様、竜丁に団長の説得を頼んでみたらどうでしょうか」
「なんだ、そのニンジンを覚悟というのは。夜間の警備を強化したいだけだ。竜丁を怒らせたいわけではないだろう」
鍛錬のあと、鍛錬場の片づけをしながらの彼らの真面目で不真面目な会話のことを、ライマーは思い出していた。




