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8)救護室2

 痛みを伴う治療が終わり、猿轡を外されたルートヴィッヒは、痛み止めの薬湯がようやく効いてきたこともあり、一息ついた。


「問題だ。観客が、受け入れるか。アルノルト殿と、カールの二人で、模範試合でもしてはどうか」

ルートヴィッヒは、自身の怪我よりも、国王陛下主催の御前試合の進行が滞ったことを案じた。


「お前は、そういうことを心配する前に、自分の怪我のことを考えろ」

「候、普段より、余所者が多いときに、この怪我は不味いだろうが。どうする。嫁さ、竜丁ちゃんが危ないだろうが。そっちを考えろ」

「全くです。怪我をしておられる御身のことを第一に考えるのが基本でしょうに」

アルノルトとカールに、薬師も加わり、自分を二の次にするルートヴィッヒに忠告した。


「年に一度の御前試合だ」

カールに支えられて診察台に座るルートヴィッヒは試合の意義を繰り返したが、誰も相手にしない。


「試合は試合、怪我は怪我、治療しないと治りませんよ。今痛みが治まっているのは薬湯の効果です。いずれ切れます。あなたの顔色は素晴らしく重症に相応しく最悪です。きちんと休まれるべきですね」


 薬師は包帯を巻く手を止めずに、口も動かし続けた。

「鎖骨が折れています。腕を固定します。胸も縛りますよ。骨がつくまで当面動かさないようにしてください。肋骨も複数折れています。痛むでしょうが、安静で治ります。鎧が食い込んだ傷が何か所か、相当深いですね。肉が戻るまで、しばらくかかるでしょうから、無理はしないでください」

「動かすな、とおっしゃるが」

「利き腕ではないのですから、まだなんとかなるでしょう」

ルートヴィッヒの抗議を、薬師は却下した。


「御前試合をどうするかなんて、貴族か、国王陛下が決めるだろう。それか、王都竜騎士団団長のお前だ」

「ならば、二人が模範試合を」

「しない。お前の警護だ」

「同じだ」

ルートヴィッヒの提案は、言い終わる前に却下された。

「良いお仲間をお持ちですね」

薬師は笑った。


「今は痛み止めの薬湯が効いていますが、いずれ切れます。今日は、早めに休まれた方がよいでしょう」

血の気のないルートヴィッヒの表情が明るくなった。


「祝賀会は欠席だ」

「私はラインハルト候の警護がいるから、祝賀会を欠席しよう」

「俺も。正攻法以外だったら、俺が役に立つし」

「皆さん、よほど祝賀会が御嫌いなようですね」

薬師はそんな三人を見て笑った。


 扉が叩かれ、伝令が今日の試合に関する決定を告げた。

「御前試合は終了です。今年は優勝者はなし。事故を防がれたということで、功労者としてラインハルト侯が、祝賀会で表彰されます」


「ということは、強制出席か」

怪我を口実に祝賀会の欠席をもくろんでいたルートヴィッヒは、溜息を吐いた。


「祝勝会前に、痛み止めの薬湯をまたもらえるか。あるいは、王都竜騎士団の竜丁に作り方を教えてもらえるだろうか」

「噂の女竜丁さんですか。もちろんです。一度お会いしてみたかったのです。平民とは思えない才女とか。殿下の家庭教師達から聞いています」

「飯もうまいぞ」

その竜丁の来訪を取り次ぐ声に、会話は終わった。


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