表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/250

7)救護室1

 大番狂わせだった。就任前年から無敗だったルートヴィッヒが、優位に進めていた試合を放棄し、転落した竜騎士を助け、負傷したのだ。衝突事故を引き起こしたのは西方竜騎士団の騎士達だった。


 次の準決勝は南方騎士団団長アルノルトと、西方竜騎士団団長ヨアヒムの試合だった。ヨアヒムは部下の事故の責任を取り、不戦敗が決まった。


 年に一度の竜騎士による御前試合は、準決勝の一戦の途中で幕引きとなってしまった。異例の事態だった。


 物陰に入るなり、ルートヴィッヒは倒れこんだ。

「よく歩いたな」

「候、なんなら気を失っとけ、そのほうが痛くないだろ」

アルノルトとカールの手で、ルートヴィッヒは待機していた担架に移された。担架の白い布が赤く染まっていく。


 救護室で、鎧を外したルートヴィッヒを見た薬師は、渋面になった。互いの鎧は身を守りもしたが、ルートヴィッヒに怪我もさせていた。


「痛み止めの薬湯を飲んでください。手当てしますが痛みますよ。猿轡もかませます。歯が割れたりしてはいけませんから」

有無を言わせない薬師の様子にルートヴィッヒは頷いた。


 痛み止めの薬湯といっても、即座に効果があるわけではない。傷の処置の間、猿轡をかまされたルートヴィッヒは必死で声をこらえていた。

「痛むなら叫んでください。その方が傷の程度が分かりやすい」

ルートヴィッヒが首を振った。


「見習いのころから、やせ我慢ばかりする奴だから無理だ。因みに今は、相当痛いはずだ。食いしばり方を見ていたらわかる」

「だったら、代わりに痛みの程度を我々薬師にもわかるように、あなたが言ってください」

「努力する」

薬師の無茶な要求に、アルノルトが答えると同時に、ルートヴィッヒの手がシーツをつかんだ。


「今、普通の奴なら絶叫しているぞ」

「あぁ、やはりここが深いようですね」

ルートヴィッヒがかすかに声を漏らした。

「傷に何か、食い込んでいますから取りますよ。痛いでしょうが、堪えて、おられますね。すみません」

口は謝るが、薬師は手を止めない。


「薬師って怖いな」

カールの言葉に薬師は苦笑した。

「傷の中に、石など残っていたら、治りません」

「まぁ、そういうもんだろうけど」

呻き声とともに、宙をかいたルートヴィッヒの手を、カールは掴んだ。


「俺だったら、叫んで、ついでにあんたを蹴飛ばしてるよ」

「もしかして、今、私、殴られるところでした」

口を動かしながら、薬師は手を止めない。


「殴りかけて、途中で気づいて方向変えた。他の奴に、そんな手当てするなら縛っとかないと、あんた危ないよ」

「今後の参考にさせていただきます」

それでも薬師は手を止めなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ