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6)御前試合2

 アリエルの叫び声にルートヴィッヒが反応し、落ちる竜騎士に向け、トールを急降下させた。試合を無視したルートヴィッヒの急降下を、カールとトルナードは、バランスを崩しながらも避け、同じく落下していく竜騎士のほうに向かった。アリエルを乗せているアルノルトは、無理な飛行はできない。


 すでに着陸したトールの元に、ブリッツを向かわせた。


 広場に着地したトールの周囲を竜や竜騎士が囲んでいた。


 落ちた竜騎士の鎧は西方の所属だった。座り込み、呆然としたまま、他の竜騎士たちに声をかけられていた。


 対してルートヴィッヒは、トールに乗ったまま、鞍の上で左肩か胸を庇うように身をかがめ、動こうとしなかった。カールは、ルートヴィッヒの左を庇うように立ち、声を掛けていた。


「ラインハルト候」

「団長様」

二人の声に、ルートヴィッヒがわずかに顔を上げた。


「手を貸そう」

アルノルトとカールの手をかりて、ようやくルートヴィッヒは鞍から降りた。

ー“独りぼっち”の左にあの人間が当たったー

互いに鎧を着ていた二人だ。その衝撃がどれほどのものか、想像だけでも恐ろしい。アリエルは近寄ったが、ルートヴィッヒに触れようとした手は、カールとアルノルトに止められた。


「団長様」

ルートヴィッヒはアリエルに微笑んだ。血の匂いがした。王都竜騎士団は鎧も服も漆黒だ。出血の程度がわからない。痛みをこらえているためか、ルートヴィッヒの額に冷や汗が浮かんでいた。

「竜丁、私はいい。薬師のところにいってくる。あの竜を下ろしてやれ。混乱している」


 ルートヴィッヒの言う通り、乗り手を失った竜は、上空を旋回していた。どうしていいかわからないのだろう。

「おいで」

アリエルが上空に手を伸ばすと、竜がゆっくりと降りてきた。周囲はざわめいた。竜は乗り手の竜騎士や、世話をしている竜丁以外の言葉に従うことはない。


 アリエルは降りてきた竜を見て、異常に気付いた。

「団長様」

アリエルの視線の先を見たルートヴィッヒの顔が険しくなった。手綱が切れていた。

「回収してくれ。鞍もだ。できるか」

「はい」


ー避けなかった。進めと、どうして、曲がるなとー

乗り手を落としてしまった竜は、一生懸命トールに訴えていた。彼の乗り手を助けるためにトールの乗り手が大怪我をしたのだ。竜には竜同士の関係がある。


ー泣くな、若造ー

「落ち着いて。大丈夫よ。あなたのせいではないわ」

アリエルはそう言いながら、竜の手綱と鞍を外してトールの鞍に乗せた。切れた命綱の半分は、地面にへたり込んだ竜騎士の腰についたままだ。回収したいが、周りの竜騎士が邪魔だ。


 竜の手綱も鞍も外したアリエルに、周囲は唖然とした。鞍はともかく、檻の外で手綱を離し、竜を自由にするなど、あり得ない。


「この竜はいったん、王都竜騎士団の竜舎で預かります。動揺しているようです。最も近い竜舎で休ませた方がいいでしょう」

西方竜騎士団の竜騎士たちに反論させる間を与えずに、アリエルはトールに軽く合図をすると、歩き出した。手綱を使わずに竜を移動させることができるのは、アリエルだけだ。唖然とする周囲を無視し、アリエルは、トールと、手綱も鞍もない竜の先に立って歩いた。


ー竜丁、“独りぼっち”についてやってくれ。この若造は私が連れて行くー

「人目があるの。観客もいるわ。心配だけど、まずはこの子をなんとかしないと、人間同士がわざと衝突させたのでしょう。人間が何を考えているのか、わからないわ。団長様には、アルノルト様と蝙蝠さんが一緒だから、任せましょう」

アリエルは囁いた。


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