5)御前試合1
御前試合当日、勝ち抜き戦の組み合わせを見たアルノルトが不敵な笑みを浮かべた。
「これはこれは。いい試合になりそうだな。竜丁殿、なんなら間近で見るか」
アルノルトが指したのは準決勝。順調に勝ち上がれば、ルートヴィッヒとカールが対戦する組み合わせになっていた。
「何、この試合は、俺も周囲の警戒に当たる。竜丁殿なら、私のブリッツも乗せるだろう」
「よいのですか? アルノルト様も、そのあとの試合に参加されますのに」
「それでも見たいという試合になる。これはな」
確かに、前年のルートヴィッヒとアルノルトの試合の際、上空での警戒の担当となった竜騎士達は興奮気味だった。
「アルノルト殿」
準決勝直前、アリエルを乗せて周囲の警戒にあたると宣言したアルノルトに、ルートヴィッヒは、よい顔をしなかった。
「アルノルト様、それでは、ラインハルト侯が張り切るから、俺が不利じゃないですか!」
叫んだカールの頭をルートヴィッヒは無言で叩いた。
「ひでぇ。本当のことを言っただけなのに」
「蝙蝠、口は災いの元だ」
アルノルトは苦笑し、アリエルを促した。
「試合を空から見るのは初めてか」
「はい」
ー“親方”が楽しそうだなー
アルノルトの騎竜ブリッツも機嫌がよかった。親分気質のアルノルトは、竜達に“親方”と呼ばれている。
「事実上の決勝みたいなものだ。機動力の蝙蝠に、柔剛を併せ持つラインハルト侯の妙技の戦いだからな」
試合は確かに白熱した。王都竜騎士団団長のルートヴィッヒと、東方竜騎士団副団長のカールは、互いに己の騎士団の代表である。かつ、王都竜騎士団団長であるルートヴィッヒはすべての騎士団の指揮権も持つ以上負けられない。小型の竜、トルナードは上空で器用に方向を変えて攻撃してきた。
「やはり、乗り手の熟練度の差だな」
ルートヴィッヒはトルナードを操るカールの意図を察して、上手く躱しながら攻撃を仕掛けていた。その攻撃を、機敏な一人と一頭は、切り抜けていた。どちらが押しているかは、徐々に明らかになりつつあった。
アルノルトは決められた通り、ゆっくりと旋回しながら、周囲を警戒していた。
「竜丁殿は、ラインハルト侯の試合をちゃんと見ていてくれ。私は、任務もあるからね」
その時だった
ーどうして、避けないー
ー避けて、ぶつかるー
二頭の竜の叫び声にアリエルは上空を見た。人の叫び声が聞こえ、衝突した竜騎士のうち、一人の体が鞍から浮いた。
「落ちる!」
アリエルは叫んだ。




