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4)南方竜騎士団団長と東方竜騎士団副団長

 冬が終わり、春になると毎年恒例の御前試合の時期になる。


 今年も南方竜騎士団は、王都竜騎士団の兵舎にやってきた。竜騎士団同士の形式的な挨拶のあと、アルノルトはカールを見た。

「東の、お前相変わらず蝙蝠と名乗っているのか」

アルノルトは、カールを呆れた声で軽く注意しただけだった。

 

「竜丁殿、去年も今年も世話になる。竜丁殿への礼になればと、南で採れる果物の砂糖漬けを持ってきた」

「まぁ、ありがとうございます。せっかくですので、皆さまがいらっしゃる間に、何か美味しいものができたらと思います」

アルノルトが持ってきてくれたのは、少し変わった風味の砂糖漬けだった。独特の果物の香りは、酸っぱく少し臭くて濃厚な甘さがあった。


 東は、先に来ていた副団長のカールの部下として五人やってきた。東方の五人は、一度挨拶に来たが、東方竜騎士団団長の実家である貴族の屋敷に世話になると言って、飛んでいってしまった。カールだけは、王都竜騎士団の兵舎に居座っていた。


「ラインハルト侯の竜丁様! どうか、候に、俺をここに置いてくれるよう、お願いして下さい」

カールに頼まれたアリエルは首を傾げた。確かに、貴族の屋敷では、カールの奔放な振る舞いは許されないだろう。だが、試合当日も含めて、たった数日である。おまけに貴族の屋敷の預かりの場合、彼らの抱える騎士達の宿舎に泊まり、同じ食事が出されると聞いた。現状とさほど変わらないはずだ。


「あちらのお屋敷に、東の団長殿の御母堂様が居られる。礼儀作法に大変厳しいお方だ。竜騎士見習いの訓練の最中、カールだけ礼儀作法の特訓をあの方に受けていた。カール副団長殿、もう一度ご指導を頂いてはいかがかな」

少し意地の悪いルートヴィッヒの言葉にカールは叫んだ。


「無理です! 無理です! 俺、何でも手伝います」

結果、カールは厨房に立つことになった。


 月に一回の客が来訪する日となった。カールはジャガイモを洗い、皮つきのまま、薄く切っていた。

「さすが、東の副団長様、二刀流というだけあって、手先が器用ですね」

「だっろー、さすが、候の嫁、いや、竜丁ちゃん、わかってるねー」

アリエルの素直な賛辞に喜んだカールは、他の野菜も次々と、薄く切っていった。そのあと、護衛騎士達と一緒に肉を切って、ひき肉にもしてくれた。


 晩、アリエルは、主菜を肉団子のスープにし、カールが切った野菜を油で揚げ、薄く塩味だけつけたものを副菜に出した。油を大量に使う贅沢料理だが、王都竜騎士団の食費は、潤沢である。月に一回食事を食べに来る人が、彼らの夕食分と、息子のおやつ代の分を上乗せしてくれていた。


「こんなものは、初めて食べるぞ、竜丁」

「ルーイの竜丁ちゃん、これは、美味しいね」

月一回来る親子とその護衛騎士達にも、その揚げ物は好評だった。


「東の副団長様が、とても薄く切ってくださったから、この歯ごたえになりました。東の副団長様のおかげです」

アリエルの言葉に、彼の経歴を知る者たちは苦笑した。人間を切っていた男に、野菜と肉を切らせて料理したのだ。


「時に豪胆だな」

ルートヴィッヒは苦笑しただけだった。

「竜丁殿、お代わりはあるかね」

アルノルトは、国王親子と同席でも、いつも通りだった。


 


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