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1)死神殿下と蝙蝠1

 定められた旋律の一つを、見張り台にいる男の吹く角笛が奏でた。

「竜が来る」

竜騎士たちが、次々と騎竜に乗り空へと向かった。空中で決められたとおりに飛び、その竜は所属を示した。

「東の竜ですね。単騎とは珍しい」

飛び立った竜騎士たちが、先導し、その竜騎士は降り立った。


「会いたかったよー、死神殿下! 」

とんでもない一言とともに、竜から降りるなり向かってきた竜騎士に、ルートヴィッヒは迷いなく抜刀した。

「黙れ」

ルートヴィッヒが本気で切りつけたが、その男は身軽に避けた。

「ひどいなぁ。ほぼ二年ぶりじゃないか。僕とあなたの仲なのに、つれないなぁ」

その男は、十分に距離をとると腹を抱えて大笑いしていた。ルートヴィッヒの渋面と見事な対比だ。


「カール、お前はいつになったら、竜騎士としてまともに振る舞うつもりだ。いくら腕があっても、それでは部下に示しがつかないだろう」

厳しい態度を崩さないルートヴィッヒに、カールと呼ばれた男は姿勢を正した。


「これはこれは、王都竜騎士団団長、ラインハルト侯爵。さきほどは大変失礼いたしました。二年ぶりにお会いでき、感動のあまり失礼しましたこと、お詫び申し上げます」

「東方竜騎士団副団長カール殿、この度は遠方よりよく参られた。王都竜騎士団団長として、貴殿を歓待しよう」

先ほどの騒ぎを無視したように、二人はいきなり態度を変え、礼儀正しく挨拶を交わした


「東方竜騎士団副団長カール殿、よろしければ貴殿の竜」

竜舎を案内しようとしたハインリッヒに、カールは叫んだ。

「おれは、蝙蝠だ。俺を、カールと呼んでいいのは、名前をくれたラインハルト侯爵と、俺を竜騎士に任命してくださった国王陛下だけだ。何度も言わせるな」


「カール、お前はそのこだわりをなんとかしろ。昔の呼び名など出して、無用の厄介ごとを引き寄せたいのか」

「は、そんな厄介ごとなんざ、俺が全部片づけて」

「お前は副団長ではなかったのか」


「私に関する面倒事は、すべて私の責任です。私自身ですべて片付けますゆえに、お気遣いいただかなくとも結構です」

「言葉遣いをただしたところで、お前の行動が意味することは変わらないだろう」

「殿下、じゃなくてラインハルト候にお気遣いいただき、感激の極みです」

「カール、そもそもお前は東で何と呼ばれている」

「変わらず蝙蝠副団長と呼ばれております。どうか、ここでもそのようにお呼びいただけたら」

「信じられん。まだ、その呼び名を変えていなかったのか」

「蝙蝠、東ではそれでもよいかもしれないが、ここは王都だ。昔の仲間がいると言っていたのは君だろう」


 来訪者を相手に、ルートヴィッヒ達が騒いでいる間にアリエルがやってきた。

「大丈夫か」

「はい」

ルートヴィッヒの言葉にアリエルは微笑んだ。

「初めまして。東方の副団長様。私はここで竜丁をしております。よろしければあなたの竜を竜舎に連れて行って、他の竜に会わせたいのですが」

アリエルが手を伸ばすと、少し小柄なカールの竜は、いそいそと近づいてきた。


「あなたとは初めましてよね」

アリエルはそっと撫でてやる。

「もしかして、あなたが、ここの女竜丁さん」

「はい」

「おー、じゃぁ、あんたが死神殿下のいい人」

そう叫んだカールの襟首をルートヴィッヒが掴んだ。

「お前、その口を何とかしろ」

「いやあ、申し訳ない。なにせ慣れないもんで」


 言われたアリエルは耳まで赤くなった。

「あの、竜をつれていきます」

「あ、殿下の嫁さん、その子、トールが大好きで、暴走するから注意して」

「竜丁、手綱は放せ。そいつはたまに突っ走る。カール、お前は勝手なことを言うな」

「いや、俺の口、正直すぎて、ほら、竜騎士らしい、口の利き方とか、長時間は無理なわけよ」


「先刻の口の利き方を保っていればいいだけだ」

「ラインハルト侯、どうかご容赦を」

「大げさな」


 アリエルは、仲良く言い争う男達を放置することにした。

「あなたトールに会いたいのね。じゃぁ一緒に行きましょう」

アリエルの歩みに小柄な竜は合わせてくれる

ートール様の竜丁さんー


「そうね」

ー大丈夫、怪我したの。“蝙蝠”より歩くのが、とっても遅いよー

「少し前に。もう治ったのだけれど。まだ早く歩けないの。心配してくれてありがとう」

ートール様、怒ったー

「トールも、他の竜達も、私のことをとっても心配してくれて、人間達をものすごく怒ったそうよ。心配してくれてうれしいけれど。他の人間がたくさん怒られてしまったのは、ちょっと悲しいわ。犯人は別にいるのに」


ートール様と僕達は人間守る。人間は、トール様の竜丁を守るー

「そうね。みんなに大切にしてもらっていると思うわ。ありがとう」

小柄なだけでなく、まだ若い竜のようだった。


 竜舎に着くなり、小柄な竜はトールの檻に向かって走った。

ートール様!-

ー元気だったか、小僧。お前の変な人間“蝙蝠”はどうだー

ーいい人。他の人間とは違う。でも優しいー

先輩と後輩のような会話をする二頭をいったん同じ檻に入れてやり、アリエルは外に出た。



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