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1)空
毎年この時期、養父は空を見上げる。
「司祭様」
豊穣の女神の司祭であり、養父でもある男と一緒に、アリエルは空の一角を見つめていた。いつもほぼ同じ時期、同じ方向から彼らはやってくる。
「今年は少し遅いのかもしれないね」
夕闇が迫っていた。
「司祭様、今日はもう、帰りましょう」
アリエルと養父は、二人で暮らす小屋に戻った。
「今年は、竜騎士様達は、遅いですね」
「そうだね」
夕食の時の穏やかな会話。多分、この近くの村では皆、同じ会話をしているだろう。竜騎士たちが編隊を組んで飛ぶ姿を眺めることは、収穫が終わった後のこの地方の楽しみだ。
神殿へ、夜のお勤めに向かう養父のために、アリエルは明かりを手に取った。小さい時からのアリエルの仕事のようなものだ。
「では、いこうか」
「はい」
豊穣の神を祀る小さな神殿と、その横の小屋で、アリエルは養父と暮らしていた。慎ましくも幸せな生活だった。優しくて厳しい養父との生活。穏やかな毎日が終わる日が来るなど思ってもいなかった。